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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6748号 判決

原告

東京都住宅供給公社

右代表者理事長

三木與志夫

右訴訟代理人弁護士

山口正雄

高瀬迪

野村宏治

江尻美雄一

被告

中村レツ

外四二一名

右被告ら訴訟代理人弁護士

安田叡

我妻真典

永瀬精一

右安田叡訴訟復代理人弁護士

南惟孝

主文

一  被告らは、原告に対し、それぞれ別紙認容額一覧表記載の金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の七分の一と被告番号78ないし130、407、408の被告らに生じた費用の二分の一を原告の、原告に生じた費用の七分の一と右被告らに生じた費用の二分の一を右被告らの、原告に生じたその余の費用と右被告らを除くその余の被告らに生じた費用を右その余の被告らの、各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、それぞれ別紙請求一覧表記載の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  原告の地位

原告は、東京都内における都民の住宅困窮者に対する住宅の賃貸、分譲を主たる業務とする特別法人であつて、もと財団法人東京都住宅協会と称していたところ、昭和三五年に東京都住宅公社と改称し、昭和四一年四月一日からは、地方住宅供給公社法(以下「公社法」という。)に基づき東京都住宅供給公社として発足して、旧公社の権利、義務一切を承継したものである。

二  賃貸借契約

原告は、被告らに対し、それぞれ、別紙物件目録記載の各建物(以下、昌平橋、江古田、青葉町第二、西台の各住宅を総称して「本件四団地」という。)のうち、別紙賃貸借目録(一)ないし(三)記載の賃貸借物件を、同各目録記載の賃貸借年月日に、次の約定で貸し渡した(ただし、同目録(一)記載一一九ないし一二二の各被告らについては、同日録記載の賃借人に貸し渡し、同目録記載の承継年月日に同目録記載の承継事由により、右各被告らが賃借人としての地位を承継した。)。

1 家賃

別紙賃貸借目録(一)ないし(三)記載の各当初家賃額

2 家賃支払方法

毎月七日限り、その月分を原告の指定する場所に支払う。

3 家賃滞納損害金

滞納額に対する年14.6パーセントの割合による金額

4 敷金

月額家賃三か月分

5 期間

一年

6 原状回復費用

被告らが各住宅に対し模様替えその他施設に変更を加えた場合において退去するときは、原状に回復しなければならず、それをしない場合には、原告に対し、原告が定める費用を賠償しなければならない。

三  家賃増額の意思表示

原告は、昭和五一年一〇月二七日ころ、各被告らに到達した書面で、昭和五一年一二月一日以降当初家賃額をそれぞれ別紙賃貸借目録(一)ないし(三)記載の各改定家賃額に増額する旨、同日以降は右改定家賃額を支払つて貰いたい旨、同日以降従前の家賃額を支払つても(供託を含む。)改定家賃額の一部として受領する旨の意思表示をした(以下「本件値上げ」という。)。なお、原告は、念のため、同年一一月六日ころ、本件四団地内にポスターを掲示し、家賃増額に関する前記書面記載の趣旨を周知させた。

四  増額家賃の決定方法

1 原告は、住宅建設に当たり、その建設資金について主として住宅金融公庫(以下「公庫」という。)の融資を受けているため、家賃額の変更については住宅金融公庫法(以下「公庫法」という。)三五条、同法施行規則(以下「公庫法規則」という。)一一条の制約を受けている。

2 右規定に従い算出した本件四団地の算出増額家賃は別表一の1ないし4のとおりである。

(一) 青葉町第二住宅については既に公庫からの借入金を全額返済しているので、本来、右規定に従うことは必要ではないが、便宜、他の住宅と共通の方法により算出した。

(二) 同表の内訳中「住宅の維持管理の額」(以下「維持管理費」という。)は公庫法規則一一条五項に規定する額であり、同所に記載の「算出率」は公庫が毎年一〇月に定める推定再建築費算出率の数値である。

五  本件値上げの理由

本件値上げの理由は、維持管理費の増大、公租公課の変動、地代等の増加、比隣の建物の賃料との比較などから従前の家賃額が低額に過ぎて不相当となつたことにある。なお、原告は、本件四団地の賃貸開始(昌平橋住宅は昭和四一年七月、江古田住宅は昭和三三年五月、青葉町第二住宅は昭和三八年六月、西台住宅は昭和四八年三月)以来、かつて家賃の増額をしたことはない。

1 維持管理費の増大

維持管理費は、これを管理事務費と修繕費に分けることができる。

(一) 管理事務費について

(1) 管理事務費については、直接の担当部門である管理部のほか、経理部、建設部、総務部、用地部、業務部の各職員が、総括役員をも含めて直接、間接に全団地の管理運営に当たつているので、各団地ごとの職員数や必要経費の算出は不可能である。

(2) 原告の昭和四一年度から昭和五〇年度までの役職員数は別表二(所属部別役職員現員表)のとおりであり、ほぼ年々増加している。なお、管理部の職員は、年々増加はしているが、一方において別表三(管理部職員一人当たり管理戸数)のとおり管理戸数も増大しているので、職員一人当たりの管理戸数は、昭和四一年度に二三三戸であつたものが昭和五〇年度には四〇五戸まで負担増加となつている。

(3) 原告が行つている各事業(建設事業、用地造成事業、管理事業等)の経費の支出については、決算上直接経費と部門共通経費及び一般管理費(退職給与引当金繰入れを含む。以下同じ。)とに分けられる。それらの内容及び配分方式は、別表四(公社決算における経費配賦の方法)及び次のとおりであり、右方式に基づく原告の管理する賃貸住宅団地(以下「公社住宅」という。)総体の原告発足年度の昭和四一年度から昭和五〇年度までの管理事務費の収支内訳は別表五(賃貸住宅管理事務費収支内訳)のとおりであつて、昭和四二年度以降毎年大幅な赤字を計上している。

(ア) 直接経費とは、支出する時点でその事業部門の各種別ごと(管理事業でいえば、賃貸住宅、長期分譲住宅、賃貸店舗等)の費用として明確なものを言う。

(イ) 部門共通経費とは、その事業部門に要する共通的な諸費用(人件費、物件費等)で各種別が応分に負担しなければならないものである。

(ウ) 一般管理費とは、原告の各事業を総括して運営して行くための部門(役員及び総務、経理部)に要する諸経費(人件費、物件費等)で、各事業が応分に負担しなければならないものである。

(二) 修繕費について

(1) 修繕費については、各建物とも建設後年月を経過するに従つて、累進的に膨張するほか、必ずしも毎月あるいは毎月一定額の支出があるわけではないため、建設当初から建物が賃貸借の目的を達し得なくなるまでの長期間にわたり、賃借人に適正かつ公平な修繕費の負担を求めるためには、各団地ごとに毎月実際に要した費用の多寡にかかわらず、一定額を修繕費として家賃に算入して徴収し、必要な修繕に備える必要がある。

ところで、修繕を要する時期、箇所は必ずしも前もつて確定できないから、その費用を事前に見積ることは不可能である。原告においては、計画修繕と称して、一定の計画のもとに修繕や改良を実施しているが、それに要する費用についても、実施に当たつて現実に必要な修繕の程度、方法を確定しない限り、費用を算定することは不可能である。まして、右以外の突発的要修繕箇所については、時期、方法、金額を予測することは全くできないことである。以上のような実情からすれば、各団地ごとに必要な修繕費を予測して、これを家賃に算入することは不可能であると共に、また、各団地ごとの修繕に当てるべき金額を各団地ごとに積み立て、使用することも適切とは言えない。けだし、修繕費が必要額に達するまで修繕をしないで放置することもできないし、修繕の程度によつては、相当な年数分を一度に使用しなければならないような大規模な場合もあり得るからである。

また、各建物は、年数を経過し、老朽化して行くに従つて高額の修繕費を必要とするから、家賃額は経年によつて著しく高額になつて行かざるを得ないという矛盾もある。

従つて、原告は、新設住宅も既設住宅もすべて総括してその修繕費を計上し、必要団地ごとに必要額を支出し、各団地とも良好な住宅環境を維持するという方法をとらざるを得ない。このように、公社住宅全体として一括運営することにより、結局のところ居住者の負担は公平化、均衡化されるのである。

(2) 本件値上げ前における公社住宅の一〇年間の修繕費の収支について、団地ごとに算出すると別表六(賃貸住宅団地毎修繕引当金収支状況)のとおりとなり、その内訳は別表七のとおりである。これらの一〇九団地のうち七三団地(六三パーセント)が収支において赤字となつており、黒字団地と差し引いても三五億八〇〇〇万円の資金が不足している。このような状況のもとで、原告が公社住宅の管理開始以来一度も家賃改定を行わず維持管理してきたのは、前記のように新設及び既存の各住宅の家賃に含まれる修繕費を一括プールして運用してきたこと及び事業外収益から積み立てられた特定引当金等によつて賄つてきたからである。

(三) 公社住宅全体としての維持管理費の推移をみると次のとおりである。

(1) 昭和四一年度から昭和五〇年度までの累積の収支

(ア) 収入 六四億七五二六万六〇〇〇円

支出 一一二億九五八二万六〇〇〇円

差引 △四八億二〇五六万円

(イ) 右の内訳

(a) 管理事務費

収入 二三億二六三八万九〇〇〇円

支出 三五億六二七三万七〇〇〇円

差引 △一二億三六三四万八〇〇〇円

(b) 修繕費

収入 四一億四八八七万七〇〇〇円

支出 七七億三三〇八万九〇〇〇円

差引 △三五億八四二一万二〇〇〇円

(2) 本件値上げ時に近接する過去三年間の収支

(ア) 昭和四八年度

(a) 収入 一〇億一九七六万七〇〇〇円

支出 一〇億九六五八万三〇〇〇円

差引 △七六八一万六〇〇〇円

(b) 右の内訳

① 管理事務費

収入 二億九七四六万円

支出 四億六五五四万円

差引 △一億六八〇八万円

② 修繕費

収入 七億二二三〇万七〇〇〇円

支出 六億三一〇四万三〇〇〇円

差引 九一二六万四〇〇〇円

(イ) 昭和四九年度

(a) 収入 一一億〇七〇〇万八〇〇〇円

支出 一六億五八二二万四〇〇〇円

差引 △五億五一二一万六〇〇〇円

(b) 右の内訳

① 管理事務費

収入 三億二四〇六万三〇〇〇円

支出 七億一二七三万二〇〇〇円

差引 △三億八八六六万九〇〇〇円

②修繕費

収入 七億八二九四万五〇〇〇円

支出 九億四五四九万二〇〇〇円

差引 △一億六二五四万七〇〇〇円

(ウ) 昭和五〇年度

(a) 収入 一二億四〇五六万八〇〇〇円

支出 二〇億三八二二万八〇〇〇円

差引 △七億九七六六万円

(b) 右の内訳

① 管理事務費

収入 三億五三六〇万九〇〇〇円

支出 七億八〇九七万四〇〇〇円

差引 △四億二七三六万五〇〇〇円

② 修繕費

収入 八億八六九五万九〇〇〇円

支出 一二億五七二五万四〇〇〇円

差引 △三億七〇二九万五〇〇〇円

(四) 本件四団地の維持管理費の収支は、別表八の1、2(賃貸住宅維持管理費収支調書)のとおりである。

(1) 管理事務費及び修繕費の家賃からの収入については、改定前、改定後共、原告が公庫及び東京都から承認を得た家賃算定根拠に基づき算出したものである。

(2) 管理事務費の支出については、団地ごとの経理をしていないため、今回試算として算出したものであり、試算算出の方式は、別表九の1(賃貸住宅管理事務費の訴訟四団地配賦率一覧表)、2(管理部門種別毎及び訴訟四団地配賦率一覧表)のとおりである。

(3) 修繕費の支出についても決算上団地ごとの経理はしていないが、営繕担当部署における資料に基づき算出したものによると、本件四団地の管理開始年度から昭和五〇年度までの修繕費の収支及び主な内容については、別表一〇の1ないし4のとおりである。

(五) 本件四団地についての維持管理費の推移は次のとおりである。

(1) 昭和四一年度から昭和五〇年度までの累積収支

(ア) 昌平橋住宅

収入 一五三二万〇八三六円

支出 一一一〇万〇三一九円

差引 四二二万〇五一七円

(イ) 江古田住宅

収入 三二九六万六四〇〇円

支出 一億三八九七万九〇八二円

差引 △一億〇六〇一万二六八二円

(ウ) 青葉町第二住宅

収入 二〇五八万九三六〇円

支出 一五九七万三一五七円

差引 四六一万六二〇三円

(エ) 西台住宅(昭和四八年度から昭和五〇年度まで)

収入 六二一九万六四四四円

支出 三八六一万九三六八円

差引 二三五七万七〇七六円

(2) 本件値上時に近接する過去三年間の収支

(ア) 昭和四八年度

(a) 昌平橋住宅

収入 一五七万一七九六円

支出 一七〇万九五五八円

差引 △一三万七七六二円

(b) 江古田住宅

収入 三二九万六六四〇円

支出 三八六八万九〇六四円

差引 △三五三九万二四二四円

(c) 青葉町第二住宅

収入 二〇五万八九三六円

支出 二三五万一〇〇二円

差引 △二九万二〇六六円

(d) 西台住宅

収入 二〇七三万二一四八円

支出 五九六万六五五六円

差引 一四七六万五五九二円

(イ) 昭和四九年度

(a) 昌平橋住宅

収入 一五七万一七九六円

支出 一三二万三二六四円

差引 二四万八五三二円

(b) 江古田住宅

収入 三二九万六六四〇円

支出 一八二四万五二四三円

差引 △一四九四万八六〇三円

(c) 青葉町第二住宅

収入 二〇五万八九三六円

支出 二五一万一二八九円

差引 △四五万二三五三円

(d) 西台住宅

収入 二〇七三万二一四八円

支出 二一五九万七三九五円

差引 △八六万五二四七円

(ウ) 昭和五〇年度

(a) 昌平橋住宅

収入 一五七万一七九六円

支出 一七六万八九九九円

差引 △一九万七二〇三円

(b) 江古田住宅

収入 三二九万六六四〇円

支出 二六九二万六〇二六円

差引 △二三六二万九三八六円

(c) 青葉町第二住宅

収入 二〇五万八九三六円

支出 二四〇万二八五〇円

差引 △三四万三九一四円

(d) 西台住宅

収入 二〇七三万二一四八円

支出 一一〇五万五四一七円

差引 九六七万六七三一円

(六) 公社住宅の維持修繕における、住宅の経年に伴う修繕費の増大と修繕引当金残高の推移について

(1) 公社住宅の修繕費は、公庫法規則一一条一項二号に規定されている家賃中の修繕費をもつて賄われる。これを団地毎にみた場合、団地新設当初は修繕をほとんど要しないことから、右修繕引当金は年々累積されていく。しかし、次第に修繕費の支出が増えていき、蓄積されていた修繕引当金は減少する。そして、別表六のとおり、公社住宅総団地一〇九団地のうち、経年の長い七三団地において修繕費支出の累計が、家賃中の修繕費収入の累積額を超過して赤字となつているのが実情である。このことは、蓄積された修繕引当金が、建物の耐用年数を六〇年としても、これと比較して早い時期に底をついてしまい、以後は大幅な赤字を累積していくことを実証している。因みに、右別表六において、修繕引当金が黒字である団地は、管理開始が昭和三七、八年度以降、即ち経年が一三、四年以下の団地に限られているのである。

(2) 次に、それぞれの団地において、修繕費収入の累積額、即ち修繕引当金残高が、どのように蓄積され、減少し、赤字に転落していくかについてみるに、別表六のように団地毎の修繕引当金残高の金額をそのまま示しても、家賃中の修繕費の金額はそれぞれ異なり、団地規模の大小(最大四三五五戸、最小三二戸)があつて、統一的に把握理解することは容易ではないから、各団地の毎年の修繕引当金残高をその団地の一年分の修繕費収入額で除した数値、即ち、残高がその団地の収入の何年分に相当するかの数値を算出して、すべての団地に共通して何年分の修繕費が蓄積されているか、または、何年分の修繕費が既に支出されて赤字となつているかをみることとする。

(3) 別表一一の1、2(賃貸住宅修繕引当金残高推移表)はこれを算出した表である。別表一二(賃貸住宅修繕引当金収支及び累計残高表)が、修繕引当金家賃収入と修繕費支出額及び差引累計残高の調書であり、この累計残高を各団地の年収額で除した、つまり蓄積年数分をグラフとしたものが別表一一の1である。平均値は赤線で示した。なお、本件四団地は別表一一の2にあらためて示した。

(4) 調査の方法

(ア) 対象団地

昭和三四年度から昭和四二年度までに入居した三〇団地とした。昭和三三年度以前に入居した団地については、入居以降昭和三三年度までの各団地ごとの修繕費支出内訳が算出されていないために、また、昭和四三年度以降の団地については経過年数が短いためにそれぞれ除外した。ただし、西台住宅については、別表一一の2において対象に加えた。

(イ) 経過年数

入居から昭和五四年度までとした(最長二一年、最短一四年経過)。

(ウ) 修繕引当金支出額

(a) 原告においては、決算上(経理上)賃貸住宅の修繕費については総体運営をしており個別団地ごとの数字がない。たまたま営繕担当係において非公式に団地ごとに集計した修繕費の記録があるので、これを基礎とした。

(b) 別表一一の1、2、一二を作成するにあたつて記録されている数値そのままで試算(作図を含む。)してみた結果、団地によつては、極端な変動を示す場合があつた。このような極端な例は、統計上標準偏差が大きく、団地平均が必ずしも平均的実態を示すことにならないと考えられたので、これらは除外した。また、特定引当金(団地整備・特別修繕)からの支出額及び東京都からの補助等による環境整備事業については、これらの財源がなかつた場合には、それに相当する修繕は、結局は実施されたにしても実際に行われた時期より多少とも遅れて行われたことも考えられ、この場合には、当該団地の修繕引当金蓄積額は、実際の額以上に残つていることになるわけで、事実これらの支出を算入した場合には、他の団地に比較して極端な減少推移を示すため、標準的な団地平均を得られないと考えられたので、除外した。

(c) 空家補修については、原告の経理処理上、補修に要した費用は一旦全額修繕引当金から支出し、退去者が負担する分については、期中において弁償金収入として扱い、期末決算において全団地一括して修繕引当金に繰り入れているため、前記記録には退去者負担分をも含めて支出総額が計上されている。そこで、空家補修費の四〇パーセントを退去者が負担し、支払つたとみて、その額も支出から除外した。その結果が別表一二である。

以上のように、経年変化による修繕費増大の推移を把握するために適当と考えられる除外を行つた結果、別表一一の1で示した団地平均の数値は、真に全団地の標準的推移を示すものとなつている。

(d) 本件四団地についての右各控除の内容は、別表一三の1ないし4のとおりである。

(エ) 修繕引当金収入額

家賃中の修繕費相当分については、各団地ごとに決算上の数字を採用した。従つて、空家による収入減のない、いわば満額の収入額である。ただし、昭和五一年度以降の家賃増額による増収分は加えていない。

(5) 調査の結果の概要

(ア) 修繕引当金残高の蓄積年数の数値は、別表一一の1のとおりとなる。これを団地ごとにみれば、団地によつては極端な数値を示している例もあるが、調査対象三〇団地の平均値をみれば、入居から七年目までは修繕引当金は累積され上昇するが、その累積額は3.8年分までに過ぎない。八年目から一〇年目までは、3.8年分のまま横ばいを記録する。一一年目からは下降線をたどり一四年目には累積額は底をつき赤字(0.4年分)となる。一五年目からは急速に赤字が増大し、一七年目で一〇年分の赤字、二〇年目で三三年分の赤字、二一年目には四〇年分以上の赤字を記録する。

(イ) 本件四団地だけをとりだしてみると、別表一一の2のとおりとなる。

(a) 江古田住宅についてみれば、六年経過のとき最高の蓄積年数4.2年分を記録し、以後下降線をたどり、一三年目に赤字(1.2年分)を記録し、一五年目で3.5年分の赤字、二〇年目で16.0年分の赤字となつている。前記(ア)と比較しても概ね平均的な推移であつて、特別に多額の修繕費がかかつたという事実はない。

(b) 青葉町第二住宅(一七年経過)、昌平橋住宅(一四年経過)は黒字となつているが、これは市街地のいわゆる下駄履高層住宅であり、これまでは修繕費が比較的かからなかつたことによる。しかし、青葉町第二住宅においても、累積額は一四年目から下降をたどり現在の累積額は4.5年分に過ぎず、また昌平橋住宅も、一一年目から一四年目まで約四年分のまま横ばいを示すに過ぎない。従つて、今後は修繕費の増大は避けられず、修繕費引当残高が急速な下降線をたどることは間違いのないところである。

(c) 西台住宅については、入居後七年を経過したところであるから、ほぼ累積額のピークを示す年数である。しかしその蓄積額も四年半分にしかなつておらず、前記の平均値をわずかに超えている程度の累積額でしかない。そして、今後は他の団地同様に下降、赤字転落の経過をたどることになると判断される。

(ウ) 以上は、入居時からの修繕引当金の支出状況を把握することができ、かつ、一定期間を経過している団地について調査したものであるが、調査対象以外の団地についても、右推移と同様の結果を示すこととなるのは間違いのないところである。このことは、別表六の赤字状況から明白である。

(エ) 従つて、修繕費増額の必要性の有無は、現時点で修繕引当金の黒字累積があるかどうかということだけではなく、将来の修繕費の増大を含めて総体的に判断しなければならない。修繕引当金が当初蓄積されるといつてもせいぜい四年分程度に過ぎず、この蓄積額も入居以後一三、四年で底をつき、以後急速に赤字が増大して毎年の収入額もいわば焼石に水の状態で累積赤字額は数十年分にも及ぶという実情からすれば、現行の公社家賃制度のなかで許されている推定再建築費を適用しても、なおかつ必要な修繕費を確保していくことは困難である。

(七) 以上のように、公社住宅全体としての維持管理費の収支状況及び修繕引当金の残高推移並びに本件四団地に限つての維持管理費の収支状況をみても、値上げの理由は充分存するものである。なお、修繕費は常に相当額の積立金が存することが正常な状態であつて、これが取り崩されて赤字となつていることは異常な事態である。従つて、修繕費が黒字であるからといつて、値上げの理由がないわけではなく、将来の正常な維持管理に備え、一定額の家賃の増額は当然認められるべきである。

2 公租公課の推移

(一) 家賃構成要素の一つである公租公課、具体的には、固定資産税、都市計画税が三年ごとに評価額自体が改定増額され、これに対応して税額も毎年増額されている。ところが、原告においては、家賃改定を行わなかつたため、家賃の中には家賃設定当初における固定資産税、都市計画税の額だけしか算入されていない。そのため、その増額分が赤字となつてくる。

(二) これを、公社住宅全体について具体的な数値でみると以上のとおりであり、本件四団地の家賃額に占める公租公課の額は、別表一四(家賃額にしめる公租公課・地代相当額)のとおりである。

(1) 昭和四八年度

収入 四億二〇〇一万三〇〇〇円

支出 六億三二九三万二〇〇〇円

差引 △二億一二九一万九〇〇〇円

(2) 昭和四九年度

収入 四億五〇二一万円

支出 六億五五八〇万三〇〇〇円

差引 △二億〇五五九万三〇〇〇円

(3) 昭和五〇年度

収入 五億三〇四七万七〇〇〇円

支出 七億〇六九四万円

差引 △一億七六四六万三〇〇〇円

3 地代の推移

(一) 公社住宅中、敷地が借地であるため地代を支払う必要がある場合は、これも家賃構成要素の一つであつて、地代も地主からの要求によつて、増額せざるを得ない実情にある。

(二) 公社住宅全体についての地代の収支の状況は以下のとおりであり、本件四団地の家賃額に占める地代相当額は別表一四のとおりである。

(1) 昭和四八年度

収入 七三五万一〇〇〇円

支出 七三五万一〇〇〇円

差引 〇円

(2) 昭和四九年度

収入 五四三万六〇〇〇円

支出 八一七万五〇〇〇円

差引 △二七三万九〇〇〇円

(3) 昭和五〇年度

収入 五四四万七〇〇〇円

支出 九二五万五〇〇〇円

差引 △三八〇万八〇〇〇円

4 比隣建物との比較

(一) 借家法七条は、建物の借賃が比隣の建物の賃料に比較して不相当となるに至つたときは、増額の請求をすることができると規定する。原告と被告ら居住者との法的関係は、借家法の適用を受けるものである以上、原告の家賃が比隣の建物の賃料と比較して不相当となつていることも家賃増額の根拠となることは言うまでもない。原告のように、賃貸開始以来一度も値上げをしていなければ、民間賃貸住宅の現行家賃相場と比較して、低額に過ぎることは明らかである。

(二) 現在、公共的な住宅として、公団・公社・公営の三種が存在する。この三種の住宅の家賃は、概ねこの順序に従い、公団住宅が最も高く、公社住宅がこれに次ぎ、公営住宅が最も廉価に定められてきているが、原告の従前の家賃額は、公団住宅の家賃と比較しても不相当に低額であり、公営住宅の家賃より更に低額になるという事態すら出現している。

(三) 本件四団地の家賃と比隣建物の家賃との比較については、別表一五の1ないし4のとおりである。

六  現状回復費用

1 別紙賃貸借目録(二)、(三)記載の各被告らは、いずれも、同目録記載の退去年月日に、各住宅を退去したが、同目録(三)記載の各被告らは、各住宅に居住中、模様替えその他の変更を加えており、原告は、前記二6に基づいて、その原状回復費用額を同目録記載のとおり算出決定した。

2 原告は、住宅損害の査定については住宅損害査定基準表により実施しているが、その内訳は次のとおりである。

(一) 畳

退去者の責任により汚損、破損したものは畳表を新しいものに取り替えることとしているが、その際、退去者に裏返し費用相当分を負担させ、差額は原告負担としている。日焼、家具跡等の甚だしい変色等については、全額原告負担で裏返し、又は表替えをしている。

(二) 襖、障子

退去者の責任により汚損、破損したものは退去者の負担とし、色柄合わせ、自然の変色等については、原告負担としている。

(三) 塗装

退去者の責任により汚損、破損したものは退去者の負担とし、経年変化による汚損及び色合わせのための塗装は、原告負担としている。

(四) その他

ガラス破損、住宅に付随する部品(洗面、下駄箱、コンセント、棚等)の紛失、破損したもの及び模様替えした部分の原状回復費用等は、退去者負担としている。

七  被告らは、別紙賃貸借目録(一)ないし(三)記載の不払金額を原告に対して支払わない。

よつて、原告は、被告らに対し、それぞれ賃貸借契約に基づき、別紙請求一覧表記載の金員(付帯請求は、借家法七条二項に基づく利息ないしは約定遅延損害金の一部請求である。)の支払を求める。(請求原因に対する認否)

一  請求原因一の事実のうち、原告が東京都内における都民の住宅困窮者に対する住宅の賃貸、分譲を主たる業務とする特別法人であることは認めるが、その余は知らない。

二  同二、三の事実は認める。

三  同四1は認める。

四  同四2は争う。ただし、青葉町第二住宅について公庫からの借入金が全額返済済みであるので、公庫法、公庫法規則に従うことは必要ではないということは認める。

五  同五のうち、原告が本件四団地につき賃貸開始以来家賃の増額をしなかつたこと及び本件四団地の賃貸開始時期は認めるが、その余は争う。

六  同六の事実のうち、別紙賃貸借目録(二)、(三)記載の各被告らが同目録記載の退去年月日に各住宅を退去したことは認めるが、その余は争う。

七  同七の事実は認める。被告らは、当初家賃額を供託している。

(被告らの主張)

一  公社住宅の家賃及び家賃増額制度のあり方について

1 基本的視点

公社法一条は、憲法一三条、二五条に基づくものであり、また「何びとも食糧、衣服、住宅、医療その他必要な社会施設を含め、個人及び家族の健康と幸福を保障するに十分な水準の生活をする権利を有する」との世界人権宣言二五条にも不十分ながら応えようとするものである。そして、憲法二五条にいうすべての生活部面の中でも、住居は人間の尊厳性確保、人間が人間らしく生きる権利確保のために最も重要な要素をなすものである。住居は、人間の労働力再生産の場であり、安定した住居の確保がなければ労働力再生産はない。勤労者にとつて、安定した公共ないし公的低家賃住宅の供給を受けることは、必要欠くべからざることである。

公社法一条は、人権保障、社会保障を基本的視点としているのであつて、公社住宅の家賃額の決定は、これを念頭において判断するべきであり、公社法、公庫法の解釈においても公社法一条が重要な解釈基準となるというべきである。

2 公社住宅の家賃のあり方

(一) 原価主義

(1) 公社法二四条は、地方公社は、賃貸を行うときは建設省令で定める基準に従つて行わなければならないことを定め、昭和五七年五月一九日建設省令第七号による改正前の地方住宅供給公社法施行規則(以下「公社法規則」という。)一六条一項は、賃貸住宅の家賃につき、

① 賃貸住宅の建設費を地方公社が定める方法により償却するものとして算出した額、

② 賃貸住宅の建設に要した資金の利息又は利息に相当する金額、

③ 修繕費、

④ 管理事務費、

⑤ 地代又は地代相当額、

⑥ 損害保険料、

⑦ 空家等による損失を補填するための引当金、

⑧ 公租公課

等を加えた金額の月割額を基準として、地方公社が定める旨規定し、公社住宅の家賃構成要素として右の八項目をあげている。

(2) 右は、公社住宅賃料におけるいわゆる原価主義を定めたものであることは明らかであり、そこには利潤が含まれないのはもちろん、比準賃料との比較も含まれていない。右の原価主義は、借家法が予定する賃料の定め方とは明らかに異なるものであり、それはまさに公社法一条に基づく「公社の公共的性格」に由来するものである。

(3) なお、公庫法規則一一条三項は、建設省の指導においては、新設住宅の新規同時募集にさいし、厳格な原価主義による家賃では格差が生じ、不適切となる場合に、公社の収入の総額をこえない範囲内で団地間の均衡をはかるために適用するとされているが、より正確には、公庫の貸付に係る賃貸住宅相互間で、募集開始前で、当該調整対象家賃の構成要素がそれぞれ確定している場合には、当該賃貸住宅の募集時期、事業実施年度、団地区分が異なつても調整することができ、調整額は位置及び品位等を考慮して適正に定めることとされている(昭和四四年六月一一日建設省住総発第一〇七号)のであつて、右は、募集開始前における家賃の調整要件を厳しく限定し、原価主義の無限定な逸脱を禁止したものである。比準賃料をもとに家賃を改定したり、設定後の家賃変更に比準賃料を斟酌し得ることを定めた規定ではない。

(二) 個別主義

以上のように、公社住宅の家賃は原価主義により定められるべきものであるが、同時にそれは、団地別の個別原価主義でなければならない。公社法規則一六条一項にいう地代又は地代相当額、損害保険料、公租公課が個別団地別に算出されるべきものであることは疑問の余地がなく、また、建設費償却額、建設資金の利息又は利息相当額、空家等の損失引当金が、当該の個別団地ごとのそれであることは、その文言上明らかである。従つて修繕費、管理事務費も団地別のそれであるというべきであり、この二項目だけを全団地総体として算定しなければならない根拠はない。原告のいわゆる総体論は、公社法にその根拠がなく、同法の解釈論としては成り立たない。

そもそも家賃は、建物使用の対価であり、本来的に個別に算定されるべきものである。それは、修繕費、維持管理費についても同様である。それをあえて総体として算定するというのであれば、特別な規定ないし法的根拠がなければならないが、公社法にはそのような特別な規定はない。

二  本件値上げの法的根拠について

1 借家法七条一項の適用について

(一) 公社法一条に、住民の生活の安定と社会福祉の増進に寄与するということを掲げているのは、それ自体重要な意味を持つものであり、単なる精神規定、訓示規定と解されてはならない。これは、公社の公共的性格の法律上の根拠であり、その具体的な表現なのであつて、公社のあらゆる行為は、対居住者との法律関係におけるそれをも含めて、すべて右の目的を逸脱してはならないことはもちろん、右の目的に合致しなければならず、それは法解釈における解釈基準とならなければならない。従つて、公社と居住者との間の賃貸借契約が私法上の契約であり、一般的に借家法の適用があるとしても、それが全面適用されることにはならないのであつて、具体的条項の適用にあたつては右の公社の目的からみて適用を排除され、もしくは修正適用される場合があり得ると言わなければならない。

(二) 公社法二四条は、地方公社は賃貸を行うときは建設省令で定める基準に従つて行わなければならないと定めているが、右建設省令である公社法規則一六条は、前記のとおり公社賃料の構成要素として八項目を掲げており、これは限定列挙の趣旨であると解すべきであるから、その限りで借家法は適用を排除され、もしくは修正適用されると解すべきである。

(三) 原告は、借家法が全面適用されることを前提に同法七条一項をそのまま適用しているが、賃料増額請求権についても、公社の公共的性格から制約があると言うべきである。

(1) 借家法は、借家人もしくは借家権保護のために、解約の制限とともに賃料増額の制限を規定しているが、公社法一条が住民の生活の安定と社会福祉の増進をうたつている以上、公社住宅においては、借家法に規定されている右制限を、より強化することの方がその趣旨に合致するものである。

(2) 日本住宅公団法(以下「公団法」という。)に基づく同法施行規則(以下「公団法規則」という。)一〇条、公営住宅法一三条が賃料変更について規定しているのに対し、公社法、公社法規則には、直接的にはもちろん間接的にも賃料増額もしくは変更に関する規定はない。この違いに照らせば、公社法は、そもそも公社住宅については賃料の変更を認めていないと解すべきである。

(3) 公団法三一条、公営住宅法一条によれば、公団及び公営住宅の主たる業務は住宅の賃貸である。これに対し、公社法二一条によれば、原告の主たる業務は住宅の積立分譲であつて、住宅の賃貸は付帯業務にも当たらず、僅かにこれを行つても公社法違反にはならないという程度に位置付けられているに過ぎない。公社法は、当初から、公社は住宅の積立分譲を事業目的とすることを前提に規定を設けているのであつて、賃貸は、例えば住宅建設後分譲するまでの短期間の過渡的措置等、ごく例外的な場合しかないという認識にたつていると言わざるを得ず、それゆえ公社住宅においては賃料増額、変更はあり得ないこととして、規定されなかつたのである。

(4) 従つて、公社法の解釈論としては、公社住宅においては原告の賃料増額請求権は否定されていると解さざるを得ない。

(四) 仮に原告に賃料増額請求権が認められるとしても、公社法の立法趣旨ないし法解釈を逸脱した増額請求を認めるべきではない。

(1) 公社住宅の賃料構成要素である前記八項目に変動があつた場合にだけ、その変動を理由に賃料増額が認められると解すべきであつて、比準賃料との比較を増額理由とすることは許されない。

(2) 原価主義を有名無実にするような増額は許されない。

(3) 右原価主義は、当該住宅ごとの原価主義、即ち個別原価主義を言うものであるから、全住宅の総体的判断を増額理由にすることはできない。

2 公庫法三五条、公庫法規則一一条の解釈適用について

(一) 原告は、公社住宅の賃料額には一定の制約があるとし、その制約の根拠を、公庫法三五条、公庫法規則一一条に求めている。しかし前記のとおり右制約の根拠は、公社法そのものにあるのであつて、公庫から融資を受けていなくても、また償還してしまつても、それが公社住宅である限り、一定の制約を受けるのである。公庫の融資を受けている場合は、公社法、公社法規則の適用に加えて、公庫法、公庫法規則の適用を受けることによつて右の制約がより強化され、いわば二重の制約を受けるに至ると解すべきである。従つて、公庫法、公庫法規則の適用が、公社法、公社法規則による制約を緩める場合は、公社法、公社法規則に反するものとして、当該条項の適用は許されないと解さなければならない。

(二) 公庫法、公庫法規則は、公社住宅にだけ適用されるものではなく、一般民間住宅をも適用対象とする。それ故に前記の公社法の立法趣旨、目的に反する条項も存するのであつて、公庫法、公庫法規則をそのまま公社住宅に全面的に適用することは誤りであり、公社法、公社法規則に反しない限りでその適用を認めるべきである。

(三) 公庫法三五条二項は、主務大臣が定める額をこえて、当該貸付金に係る住宅の家賃の額を契約し、又は受領することができないと規定している。右は、主務大臣が定める額を賃料の最高限度額とすることを定めるものであり、それを下回る額を定めることを禁止するものではない。

(四) 公社法一条は、公社住宅の家賃の額は住宅困窮者の立場にたつて可能な限り低額であるべきことをうたつている。また、公庫貸付金は国家の資金であり、かつ低利であるから、政策的に利潤を生まないように家賃額の最高限度を主務大臣が決定する仕組みになつている。実際の家賃額は、原告の企業努力や補助金導入、低利の融資等の保護の下にできるだけ低額に押さえることを要請しているのが公社法の趣旨である。

(五) 公庫法規則一一条一項二号、五項は、公庫法三五条二項を受けて、個別住宅ごとの建設費を算定根拠とすべきことを定めているのであり、全住宅の総体的判断を容れる余地はない。

三  推定再建築費制度採用の不当性について

原告は本件値上げに当たり公庫法規則一一条五項のいわゆる推定再建築費に千分の1.4を乗じた額を維持管理費(月額)としているが、これは不当である。

1 推定再建築費制度について

(一) 推定再建築費は現在建設省が毎年一回「公営住宅法施行規則に規定する家賃の変更に係る修繕費及び管理事務費にかかわる率並びに公営住宅または共同施設の譲渡にかかわる率を定めた件」として告示する推定再建築費算出率に基づき算出されるものであるが、もともとこの推定再建築費算出率そのものは昭和二〇年代から存在した。それが昭和三四年の公営住宅法の改正により維持管理費の算出根拠とされるに至り、更に昭和四〇年の公庫法規則の改正に際し公庫融資賃貸住宅に適用されるようになつた。

(二) 推定再建築費の基本的考え方は、建築物価を基本要素として再建築費の予測を図るものであるが、もともとこの制度も率も建築物の譲渡(処分)をする際の価格を決定するため創設されたもので、この場合ある程度の意味を持つとしても、建築物の維持管理費用額を算出するにはほとんど合理的な因果関係を持たないものである。

(三) 推定再建築費は、建築物の基本構造及び使用器材、施工方法等の違いを全くと言つてよい程無視して、一律に再建築費を推測したものであり、これらの差異を考慮に入れず維持管理費を算出する点においても合理性はない。また、独占価格による建設資材費や工事費のし意的な高騰に左右され、維持管理費の適正さを確保するどころか、公共賃貸住宅の居住者の福祉のための低家賃制度の維持を根底から破壊する結果を招来することになり、公社住宅における原価主義という抑制すら破壊することになる。建築時における欠陥を看過したばかりか長年維持補修を怠つてその責任を果たさず、そのため過大な費用を要するに至つた場合はなおさらである。

2 推定再建築費算出率について

(一) 現在の公庫法規則一一条一項に定める維持管理費月額は建築費に千分の1.4を乗じた額であり、このうち千分の1.0が修繕費、千分の0.4が管理事務費とされている。因みにこの率が定められた昭和四〇年以降に管理の開始された西台住宅、昌平橋住宅の修繕費を例示すれば、西台住宅の修繕費積立月額(一戸当たり)は約三〇〇〇円となり、昌平橋住宅では同じく二〇〇〇円余となる。これは建設省住宅局の発表した「民間中高層住宅調査報告書」による民間団地の一人当たり修繕費積立額平均一七〇四円に比しそん色がないばかりか相当の高水準である。なお、右調査報告書は昭和五五年の調査額であり、本件値上げが昭和五一年であることをみる時、その実質差は更に大きい。

(二) このことは、現実の維持管理費収支バランスをみても一層明らかである。即ち、別表八の1、2をみると本件四団地のうち江古田住宅を除く三団地の修繕費はいずれも大幅な収入超過である。右はいずれも推定再建築費によらない建築費原価に千分の1.0を乗じた額であるから、本件のように推定再建築費適用後の額ではますます現実の修繕費支出との格差は増大するのであつて、いかに推定再建築費算出率そのものによる修繕費額の算定が合理的根拠のないものであるかが分かる。

(三) また、修繕費と管理事務費とを合計した維持管理費全体についても、双方通算してみれば全く同様であつて、建築費原価に千分の1.4を乗じて算出した維持管理費の収入と現実の収支との格差は、前記三団地は収入超過である。また、右は建築費原価を基準として維持管理費算出率を乗じたもので、推定再建築費を基準として維持管理費率を乗じた場合、収支格差はますます広がり、推定再建築費の算出率そのものによる維持管理費設定の非現実性も一層明らかである。

(四) 公社法二二条の趣旨も、憲法二五条の生存権保障規定を受け、これを具現化するものであるが、同条の要請は、質の良い低家賃住宅の保障ということである。そして、適正賃料の維持への努力とは、原告に対し、そこに居住する勤労者に良質の居住環境を提供しつつ、その生活水準に圧迫を加えない低家賃を維持すべき義務を課しているのである。従つて、仮に原価主義に基づく建築費から算出される維持管理費が変更される場合があり得るとしても、推定再建築費によつて変更額を定めるような安易な態度は許されない。

3 推定再建築費制度採用について

(一) 公営住宅法施行令及び同法施行規則には、推定再建築費制度の規定があるが、公営住宅においてこの制度を採用して維持管理費を算出した例はない。原告が本件値上げに当たつて初めて採用したもので、右制度が合理性のないものであることを示している。

(二) 推定再建築費制度を採用することは、現実に要した費用は考慮されていないこと、建築費原価の観念とは相容れないことの二点で公社住宅家賃についての個別原価主義に違反する。また、右制度を採用した上限額を一律固定的に維持管理費として設定することは、公社法一条の設立目的に反し、自主性を放棄するものである。

(三) 原告の長期分譲住宅の場合、居住者が分譲代金を完済するまでは原告が所有権を有し、維持管理の義務を負つているが、この場合の維持管理費の算出に推定再建築費を用いることが可能になつたのは昭和五三年八月であり、しかもこれを用いて維持費の増額をしたということは聞いていない。

(四) このように、推定再建築費制度は、適正かつ具体的な維持管理費を算出するについて何ら合理性はなく、公庫法規則一一条五項はあくまでも維持管理費の最高限度を示す目安に過ぎないと言うべきである。

四  総体論の不当性

1 原告は、本件値上げの理由とする維持管理費の増加及び公庫法規則一一条五項の必要性の判断に当たつての維持管理費の支出超過の認定について、いわゆる総体的判断をしているが、これは不当である。

右主張は、そもそも家賃が建物を使用収益することの対価であるという大原則を忘れた主張である。被告らは、それぞれが居住する各団地及びそれに付随する諸設備について使用収益権を有し、その限りで対価としての家賃を支払う義務を負つているに過ぎない。原告主張のように解すると、被告らは、使用収益権のない他団地の、その住民の使用収益に伴つて発生した修繕費等の諸費用をも負担しなければならないことになる。従つて、原告の主張は、民法六〇一条に反することになる。また、公社法規則一六条一項に定める個別主義にも反する。さらに、当該住宅について、全くもしくはほとんど維持修繕を行わず、居住者に不便、不自由を強いていたとしても、他住宅に多くの維持修繕費をかけたことを理由に値上げすることができることになつてしまい、極めて不公平、不合理な結果を招来する。

2(一) 原告は、推定再建築費制度を採用することを必要と認める事情につき、公社住宅全体の維持管理費の収支状況を示して支出超過であるとしている。しかし、昭和四七年度までは順調であつた修繕費の収支が昭和四八年度に支出超過に転じ、さらに昭和四九、五〇年度で一気に支出超過が拡大しているのであつて、この異常な超過幅は、値上げの布石として駆け込み修繕を行つた結果であると推測できる。

(二) 管理事務費も同様で、昭和四八年度以降の収支バランスを無視した公社経営は驚くべきものがあり、意図的に支出超過を作り出したと疑われてもやむを得ない。

(三) 推定再建築費制度採用に当たつて総体的判断を認めると、公社のし意的な運用による支出超過を許すことになり、公社住宅の公共性、公益性を否定する結果をもたらすことになる。昭和四八年度以降の修繕費支出超過額に相当する大部分は鉄木部塗装、外壁塗装、給水管取替工事に費やされているが、これらの工事は昭和四八年度以前に実施した事例はなく、かつ本件四団地では行われていない。このような当該居住者に還元されない修繕費の支出超過を理由に推定再建築費制度を採用することは許されるべきでない。

五  修繕費が支出超過であるとの主張に対して

1 原告の主張によつても、管理開始年度から本件値上げ直前である昭和五〇年度までの本件四団地の収支合計は収入の方が上回り、僅かに江古田住宅だけが支出超過であるに過ぎない。従つて、昌平橋、青葉町第二、西台の各住宅に関する限りは、修繕費の支出超過は本件値上げの理由になり得ない。

2 修繕費のとらえ方について

(一) 修繕費収支の過不足を判断するについては、先ず修繕の概念、定義を正しく確定することが必要であるところ、修繕とは、特殊な災害によつて生ずる大規模な破損の修理を除き、建設当初の効用を保持するための原形修復工事を言い、新設、増設はもとより、改良や模様替えのように効用に変化を与えるものは除外されている。

原告自身、その勘定科目分類基準、会計規定において、右の「修繕」と「改良等」の関係を正しく規定し、建物の当初の効用を保持する原形修復(狭義の修繕)のための「修繕引当金」勘定のほかに、賃貸資産及び有形固定資産に係る工事、請負業者に転嫁することのできない瑕疵補修並びに賃貸資産の住棟内施設の取替えまたは改良(特別修繕)に要する費用のための「特別修繕引当金」勘定、公社が管理する団地施設の新増設、改良及び維持管理(団地整備)に要する費用のための「団地整備引当金」勘定を設け、かつ昭和四七年以前にはほぼこれに従つた処理をしてきた。

(二) 右各勘定科目の財源は、特別修繕引当金については事業外収益、東京都の補助金、貸付金等、団地整備引当金については入居者が預け入れた敷金の利息、東京都の補助金、貸付金であり、家賃中の修繕費を財源とするのは狭義の修繕のための修繕引当金だけである。そして、右狭義の修繕のうち入居者退去後の回復工事である空家補修については、退去者がその費用の一部を負担しており、全額を原告が負担するものではない。従つて、いわゆる修繕費のうち、家賃中の修繕費から支出されるものは狭義の修繕のうちの一般修繕と空家補修の原告負担分だけであり、修繕費の支出超過とは、より正確にいえば一般修繕費と空家補修の原告負担分が当該住宅の家賃中の修繕費(修繕引当金)によつては賄えないことを言うことになる。

(三) なお、修繕に類似するものに増改築、災害復旧があるが、前者は東京都の補助金もしくは貸付金を財源とし、後者は損害保険による保険金を財源とするから、いずれも家賃中の修繕費を財源とするものではない。また、共同して使用する電気及び水道の使用料、塵芥、汚物の処理及び浄化槽維持管理に要する費用、共同で使用する電球の取替費用等は、家賃とは別途に入居者から徴収する共益費等を財源としており、右も家賃中の修繕費を財源とするものではない。

(四) 公庫所定の地方住宅供給公社財務諸表標準様式及び勘定科目分類基準にも、公社が管理する団地内施設の新増設、改良及び維持管理に要する費用、請負業者に転嫁することのできない瑕疵補修並びに賃貸資産の住宅内施設の取替えまたは改良に要する費用のような、通常の修繕引当金と異なる特別修繕引当金に該当する事項は、被告ら居住者に負担させるべきものではないとされている。

(五) 今回、原告は、これら本来被告ら居住者の負担すべきでない団地整備引当金や特別修繕引当金によつて賄うべきものについて、その一部または全部を居住者負担として本件四団地の修繕引当金収支を算出している。従つて、原告が本訴において修繕の概念を無制限に拡大し主張している点、即ち別表一〇の1ないし4に示す本件四団地の一般修繕の主な内容、別表六の修繕引当金収支状況、原告作成文書である空家・建築土木・給排水設備・電気工事修繕引当金種別執行状況(乙第六八号証No.2)に含まれた諸内容はもとより、これに基づくすべての評価はいずれも不当で、信頼するに足らないものであると言わねばならない。

六  管理事務費が支出超過であるとの主張に対して

1 管理事務費算定の不当性について

(一) 原告の理事らは、「原告は、現行法が定める範囲内で合理化をはかり健全経営をする責務があり、法定の千分の0.4の範囲内でやるべきではないか。超過分を家賃に転嫁するのはおかしいというのは当然である。」と述べている。このことは、もともと原告も、既成事実としての赤字を値上げの理由にしてはならないということを原則として認めていることを意味するものであり、現に昭和四一年度以前は、この千分の0.4の範囲内に納めていた。原告は、昭和四二年度から同五〇年度の管理事務費の赤字原因は、物件費及び人件費の年々の上昇にあるとするが、昭和四〇年度以前においても収支共に年々上昇していたのであつて、これをもつて赤字の原因に合理性があると言うことはできない。

(二) 原告は、昭和四一年度以来、各年とも赤字決算をした事実はなく、すべて公社事業に伴う敷金利息等の事業外収益等でこれを補填し、収支のバランスをとつてきている。

(三) 原告の管理事務費の支出額(各団地への配賦元金)及び収入額については別表五に記載されているが、これは収支共に昭和四一年度から同四二年度にかけて二倍になり、同四三年度にかけて二割近く減少するなどしている。しかし、この間の管理戸数(別表三)及び人員動向(別表二)は、いずれも二倍増も二割減もない。従つて別表五の支出内容には何ら合理性、信ぴよう性はない。

(四) 原告は、管理事務費全体を、本来負担すべき部門に適正に負担させず、賃貸部門に他事業部門の管理事務費を過大に負担させている疑いがある。特に、建設事業部門は、昭和四五年度の住宅建設実績が六八六四戸であつたのに、昭和五〇年度には八一一戸に減少し、同部門の事務管理費の収入源が極端に減少しているにも拘わらず、職員数はほとんど変わつていない状況にあるところからみると、同部門の事務管理費(人件費)を他部門(特に賃貸部門)に過大に負担させているのではないかと考えられる。

2 仮に原告の配賦方法が正しいとしても、管理事務費の支出超過については数々の疑念がある。

(一) 管理事務費収入について

別表五によれば昭和四三年度の管理事務費の収入は、昭和四二年度のそれよりも減収になつている。しかし、別表三に表示されている住宅管理戸数は逆に三四六六戸も増加している。このことは、入居者が集まらず空家住宅があることを差し引いてもあまりにも不可解である。同じく昭和四四年度の管理事務費の収入は、昭和四二年度のそれよりも減収になつているが、別表三の住宅管理戸数は逆に七八七一戸も増加している。空家住宅が多いと仮定しても説明のつかない数字の誤差である。

これらの事実は、管理事務費収入そのものの信憑性を疑わせるものである。

(二) 管理事務費支出について

(1) 別表五によれば管理事務費支出は収入を上回つているが、もともと公社が賃貸住宅管理事務費として支出可能な額は法規により住宅建設費に千分の0.4を乗じた額と定められているのであつて、これを超えて支出することは放漫経営のそしりを免れない。現に昭和四一年度の原告発足時には収支は完全に一致していたのであつて、経営努力により収支バランスを保つことは可能である。

(2) 別表五によれば、昭和四二年度以降昭和四六年度の間、支出超過幅は一〇パーセントないし二〇パーセント内外であつたものが、昭和四七年度を境として、昭和四八ないし五〇年度の三年間はそれぞれ一五六パーセント、二一九パーセント、二二〇パーセントという大幅な支出超過になつている。その結果この三年間の管理事務費支出超過合計額は九億八四一一万円に達し、全支出超過額の八割を占めている。原告は、本件値上げのための口実として、維持管理費全体の支出超過作りをしたのであり、意図的に仕組まれた支出超過であると言わざるをえない。

(三)(1) 別表五の収支内訳をみると、退職給与引当金を含めた人件費が約四分の三を占めるが、原告の場合、東京都の指導基準「財政支出団体職員の人事及び給与に関する基準」に反し、都職員比一人当たり年間一〇〇万円も高く、その上、事業が計画の半分も進まないのに大入袋を配布したりしている。

(2) 別表五によれば、直接経費の支出の中で、昭和四五年度以降委託費が計上され、年々増加の一途をたどつているが、このように原告の管理業務を外部に委託していけば、当然に原告職員の管理業務は減少し、人件費負担は減つて然るべきである。しかるに、減少どころか急速に増大している。

(3) 別表五によれば、退職給与引当金繰入額は昭和四三年度のゼロ計上から年々増加の一途をたどり、本件値上げ時点の昭和五〇年度には一億一〇二八万一〇〇〇円に膨れ上つた。これは原告職員の数からみて、過大計上のそしりを免れない。また、退職金についても、昭和五〇年度当時は民間の36.3か月の三倍近くの異常に高い乗率で支給し、しかも全員が退職することなどありえないのに、全額を積み立て引き当てるという状況すらあつたのであり、その結果生じた赤字でしかない。

(4) 部門共通費や一般管理費の相当部分を占めると思われる需要費や運営費についても、昭和四九年、人員数も減少し、建設事業も大幅に停滞しているにもかかわらず、自社ビルを空家にし、何の必要性もないのに広大な渋谷地下鉄ビルに移転するという巨額な無駄使いを行つている。

3 管理事務費の赤字について

(一) 原告の主張を前提にすると、本件四団地のうち昌平橋住宅を除いた三団地の管理事務費は、数字的には赤字になつている。しかし、これは、別表五の支出額を、仮に本件四団地に配賦した場合にすぎず、右別表の信ぴよう性の欠如及び支出の内容の不当性についてはすでに述べたとおりである。

(二) その支出面においても、現実に原告主張の支出額(配賦額)が本件四団地の管理のため有効に支出されたかどうかは極めて疑問である。

① 昭和五四年一〇月の二〇号台風の際の木造窓枠の破壊、屋上ベランダからの漏水(江古田住宅)、

② 電気関係工事の不明朗性、ダストシュートの閉鎖(青葉町第二住宅)、

③ 螢光灯等の不明朗な支出、他への疑惑に満ちた払下げ(昌平橋住宅)、

④ 欠員清掃人の不補充、管理人の二重就業の放置(西台住宅)、

など、原告の管理はずさんを極め、かつ劣悪であつて、原告主張の管理事務費分が実際に支出されていたとは到底考えられない管理状態である。仮に原告主張の支出があつたとすれば、これらずさんな管理の結果、かえつて余計な経費を支出せざるを得なくなつたことによる支出であつて、その責任は原告にあり、赤字補填を被告らに求めるのは、信義誠実の原則に反すると言うべきである。

七  公庫法規則一一条五項の必要性の判断基準について

1 過去の実績による将来の推定

維持管理費の増額の必要性の判断に当たつては、何よりも当該団地の維持管理の実績が基本とならなければならない。過去の実績を踏まえることなく、その合理性を検証することはできないからである。

本件四団地の維持管理の実績については、最も使用期間の長い江古田住宅をみても、後記のとおり何もしていないのであつて、将来相当額が必要であるとの論拠は空虚である。他の三団地においては維持管理費を大幅に蓄積していることからも、相当額を必要とするという根拠に乏しいと言わざるを得ない。

2 相当額積立論のまやかし

(一) 原告は、個別団地に限つてみても、原告の三〇年の実績をみると修繕費は一部の例外(市街地の高層住宅、江古田住宅を除く本件三団地はこれに該当する。)を除き、およそ一二、三年ぐらいまでに過去の積立分を使い切つており、公庫法規則一一条五項適用の必要性があるとし、更に例示三〇団地の経年変化に照らし、西台、青葉町第二、昌平橋の各黒字団地も今後は他の団地同様に下降、赤字転落の経過をたどることになると述べているがこれは不当である。

(二) 原告の誤りの根本は、「修繕及び修繕費」の概念をし意的、非科学的にとらえているところにある。例えば、原告は「一二、三年位までに収支が均衡し、その後は大幅な支出超過となつている。修繕費は古い住宅ほど多額に要する。」と述べているが、この説は特定引当金等「修繕」概念に入らないすべての工事費が混入されていることを前提として成り立つものである。古い住宅についても結局一部の住宅の窓枠、流しその他の改良費が増えることになつても修繕費が増えることにならないし、まして全住宅の修繕費の傾向を明らかにするものではない。また、昭和二五年から同五四年に至る間の研究である「中高層共同住宅の管理問題に関する調査研究」によれば、改良費などを混入しているにもかかわらず「収支バランスが崩れるのは二〇年前後」とされており、右一二、三年程度というのは根拠のないものである。

(三) 例示三〇団地の修繕引当金残高推移表では、東京都の貸付金等によるもの及び特定引当金等による改良については判明する限り除外したと述べている。しかし、昭和四八年度以降集中して実施された窓枠改修、浄化槽改修など東京都の貸付金によるもの及び流し取替え、構内整備に至るまでの種々の改良等への支出を含んでいる「中高層共同住宅管理問題に関する調査研究」でさえ、修繕費収支均衡を二〇年としているのであり、原告三〇団地の経年変化とは大幅にくい違い、その客観性につき多大な疑念がある。結局、判明する限り除いたのではなく、原告が昭和四八年までは特定引当金としていた給水塔の新設を昭和五〇年時点で修繕費に変更してしまつている事実や、東京都の貸付金に係る窓枠改修費のうち昭和四八年度から同五一年度半ばまで三パーセントを修繕費としていたものを、その後三〇パーセントを修繕費に繰り入れてしまつたこと、排煙孔、電話配線等種々の改良工事もすべて修繕費として計上したなど新たな作為が大規模に行われた結果の経年変化に過ぎないのであつて、正確性、客観性、合理性はない。いずれにしても右三〇団地の経年表は、木造窓枠住宅一八団地、スチールサッシ住宅(西台住宅はアルミサッシ)一二団地を同列に並べ、意図的な結論に結びつけたに過ぎないばかりか、何ら立証されていないのであるから判断資料とはなり得ない。

(四) 原告がそれに相当する費用を積み立てておかなければならないと主張する修繕費の内容は、いわゆる計画修繕がほとんどであると推測される。なぜなら日常修繕の大部分は実際には賃料とは別個に居住者が負担することになつているからである。従つて、その当否を判断するに当たつては過去に計画修繕の実績があつたかどうかが吟味されなければならないが、本件四団地のうち最も古い江古田住宅(一七年経過)の状況を別表一〇の2の修繕実績でみた場合、計画修繕などは何もない。そもそも原告において修繕計画予定表が出来たのは本件値上げ後の昭和五三年一一月になつて「東京都住宅供給公社営繕工事実施基準」が作られてからである。

(五) 原告の言う計画修繕の具体的内容は、すべての新設及び増設を含んでいる。しかし、原告が採用している建築費に千分の一〇を乗じ修繕費月額を算出する制度は、これら新増設を含まないことを前提としているのであるから、新増設のための計画修繕をもつて積立ての必要の論拠とすることはできない。

(六) 本来の計画修繕の範ちゆうに入るべき事項をみても、江古田住宅だけでなく昌平橋住宅、青葉町第二住宅についても別表一〇の1、3の「一般修繕の主な内容」をみれば一〇年から一七年の間にその実績がないことがわかる。そしてこの実績のないのは本件四団地ばかりではなく、先の「中高層共同住宅管理問題に関する調査研究」の「計画修繕支出の始まる年一覧表」の「団地No.1、経年三〇年」では、修繕出始めの年は一九年目となつている事例(この団地は原告が東京都新宿区薬王寺町に昭和二五年に最初に建築したもの。)や、また同研究の「全般的にも計画修繕の実績がない。」との指摘にみられるように他の団地においても同様であり、計画修繕実績のないものが、将来にわたつて積立てが必要だとしても説得力はない。

3 受益者負担論のまやかし

(一) 原告は、東京都の補助金または貸付金による改良工事、即ち昭和三〇年代後半までに建設された住宅の木造窓枠をアルミサッシに取り替えた工事、最寄り駅から一定距離以上離れ、かつ敷地に余裕のある住宅への自転車置場の設置、排水基準の変更に伴う浄化槽の改良工事や特定引当金勘定による流しのステンレスへの取替え、集会所の設置、受電容量の変更などすべて受益者負担が原則であるとするが、これは不当である。

(二) 窓枠のサッシ化に該当する住宅については、東京都から借り入れた工事資金について、公庫等の借入金の償還期間が七〇年の耐用期間に比べ短い(四〇年償還)ため償還完了後の償還金相当分を財源として返還する予定となつている。償還金相当額は賃料(家賃)構成要素となつており、現実に償還が完了しても居住者からこれを徴収するのであるから、改良工事費の大半の額を占める窓枠のサッシ化の費用は、実質的には居住者が負担していることになる。

(三) 特定引当金、特別修繕引当金、団地整備引当金の財源の継続的で主要なものは敷金等の預入利息であり、実質的には居住者が負担しているものである。その余の財源である原告所有の端切地等固定資産の売却などの収益(以下「売却益」という。)については、居住者が負担しているものではないが、原告については、課税を免除されるなど特別な措置がとられているのであるから、居住者負担部分は軽減されるべきである。

(四) 東京都からの補助金を財源とする工事については、補助金の性格上返還する必要のないものであるから、受益者負担は問題にならない。また、東京都からの貸付金については、返還時期について優遇措置がとられており、そのため土地建物償却後に償還金名目で賃料に含めて徴収されるのであるから、実質的には居住者が返済していることになる。

(五) 特定引当金ではまかなえない金高の張る改良工事、例えば一部住宅のベランダの浴室への改造などは、別途居住者から使用料として償還金、維持管理費、公租公課など徴収して合理的に対処している(浴室設置要綱)。

(六) なお、原告は、特定引当金の財源の事業外収益については、一定性がなくこれを恒常的に維持修繕費の財源として定められないとか、その引き当ては任意なものであつて、この事業外収益を何の財源とするかは自由であると述べているが、敷金等の利息や固定資産の売却益は、原告の事業が継続する限り必然的に生ずるものであり、これら事業外収益は近年増大している。従つて、一定性がないとは言えない。また、任意的かどうかについても東京都公報(監査報告書)によれば、「特別修繕引当金につき、本年度は、その必要額を全額引き当てすることができない状況(必要額一七億五〇七四万余円に対して引当不足額八億六八八三万余円)となつている。」としており、その引当基準の存在は明白である。原告は、昭和五〇年度の事業外収益を建設利息支払引当金勘定を新設して六億円投入し、特定引当金財源隠しを行つている。このことは特定引当金の財源があつたにもかかわらずあえて本件値上げに際し計画的な財源隠しをしたことを証明するものである。

4 あるべき「必要性」の認定基準

(一) 公庫法規則一一条五項の認定は、それをそのまま認めるとなると、仮に原告主張の支出実績をそのままとしても、更にその数倍の過大な負担を居住者に強いることになり、公社法一条に定める公社の制度目的に背馳することになる。従つてその適用は必要性の明らかな場合で、かつ合理性の認められる額以内に限ると解さなければならないのであり、右の趣旨から必要性の判断基準は、以下の要件を満さなければならないと言うべきである。

(1) 必要性の判断は、客観的になされるべきこと。原告が主観的に必要があると認めるだけは足りない。

(2) 従前の賃料では、維持管理が不可能もしくは著しく困難であり、かつその状況が切迫していること。実態のない単なる推測で将来そのような事態に至るであろうと言うだけでは足りない。

(3) 同条項を限度として増額する以前に、回避と抑制のための努力をしたこと。自ら努力もしないで安易に支出超過分を居住者に転嫁することは、信義則、公平の原則に反すると言うべきである。

(4) 居住者に納得のいく説明をし、理解を得るよう努力したこと。居住者に負担増を求める以上、その理解を得るよう努めることが、公社の当然の態度と言うべきである。

(5) 同条項を適用することによつて、居住者の生活に過度の負担を強いないこと。公社法一条の目的から当然のことである。

(二)(1) 本件値上げ請求は、右(1)、(2)の要件を満たしていない。原告の必要性認定の前提となつている総体論は、前述したとおり法解釈を逸脱しており、本件四団地を個別的にみた場合、江古田住宅を除く三団地については維持管理費が大幅に黒字である。さらに、修繕費は、概念の歪曲及び会計上の操作によつて水増計算されているのであり、管理費についても配賦元本に多くの不当性があり、実質的な黒字幅はより大きくなる。江古田住宅も、修繕費における修繕概念の訂正、管理費における配賦元本の更正あるいは耐用期間全体の中で既に家賃の中に含まれた償却財源を勘案することによつて、実質的には黒字になることは明らかである。将来における維持管理費の必要性も実証的に検証されていない。

(2) (3)の要件も満たしていない。原告の放漫経営の実態についてはマスコミがつとに報道してきただけでなく、原告内部でさえその放漫さを認めざるを得なかつた程である。経営の合理化、効率化のための努力をせず、ほとんど維持管理をせず、逆に値上げ目当ての赤字作りをし、その作られた赤字を居住者に転嫁しようとするものであつて、信義公平の原則に反する。

八  本件四団地にみる公庫法規則一一条五項適用の不当性

1 西台住宅の維持管理費の収支状況

(一) 修繕費

(1) 同住宅の修繕費が相当額の黒字であることは原告も認めるところである。原告の主張によつても同住宅の修繕費収入の、昭和四八年度から昭和五〇年度までの合計は、約四四八一万円である(別表一〇の4、別表一二)。これに対し右期間内の同支出額は合計で約七一六万円(別表一二)であつて、額にして約三七六五万円、率にして総収入の八四パーセントの黒字となつている。しかも右の支出額のうち、半分以上をしめる四〇六万円は委託費(電気保安、昇降機等)であつて、それは住宅部分の修繕費とは区別され、「施設に係る維持管理費」であり、正しくは右を除いたものが修繕費である。そうすると右三年間の修繕費の支出額は、三一〇万円前後となり、収入に対する支出割合は僅かに七パーセント程度に過ぎないことになる。加えて原告が右期間内に一般修繕として支出したと主張する別表一二記載の各年度支出額にも、団地整備、特別修繕として処理されるべきであつて、一般修繕つまり家賃構成要素である修繕費から支出さるべきではない事項が多く含まれており、これらをも差し引けば、修繕費の支出額はさらに減少し、黒字額はより増大することになる。

(ア) 昭和四九年度の一般修繕項目のうち、門扉設置、駐車禁止札設置は、いずれも、団地整備であり、また、ドアチェック、防風板取付け、落下物金網設置等はいずれも施設の新設、改良であつて、いずれも狭義の修繕ではない。右のうち、ドアチェック、防風板取付けは約一七〇万円、落下物防止金網設置は約一〇八〇万円を要したと言われており、そうすると、右二項目だけでも合計一二五〇万円は、家賃中の修繕費から支出されるものではなく、もしくは支出されるべきではないのに、違法に支出されたと言うべきであつて、昭和四九年度の一般修繕費は、原告の主張を前提にしても、少なくとも一二五四万円以上の収入超過になつていると言わなければならない。

(イ) 昭和五〇年度の一般修繕項目のうち、塔屋タラップハッチフタ替えは、防犯用に新設したものであつて、特別修繕である。また給排水設備修繕以下の項目は、現に実施されたとの確証はなく、実施について疑問があるうえ、共用施設補修、集会所扉修理、白あり駆除は、団地整備もしくは共益費の支出項目であると思われる。

(2) 原告担当者は、何ら裏付けのない感覚的なものであることを自認しつつ、維持修繕費は一戸当たり一〇万円程度蓄積されているのが望ましい旨述べている。仮に右を前提としても、西台住宅における本件値上げ当時の修繕費は、入居三年目で三七六五万円の黒字というのであるから、一戸当たり約九万五〇〇〇円を蓄積していたことになり、右担当者の希望をも満たしている。

(二) 管理事務費

原告の主張によると、同住宅の管理事務費収入は、年額約五八〇万円(別表八の2)である。これに対し、同住宅の、昭和四八年度から昭和五〇年度までの総平均支出額は、同表に基づき算出すると年額平均六〇六万円、月額一戸当たりの支出額は一二六八円であり、その赤字額は三年間全体でも七八万円程度にしか過ぎない。しかるに本件値上げは、年額八六三万円、月額一戸当たり一八〇七円に増額しようとするものであり、その必要性のないことは明らかである。

(三) 入居三年目の増額請求の不当性

同住宅にとつて本件値上げは、入居後僅か三年目の請求である。しかも右のように大幅な黒字を計上しており、短期間で増額しなければならない理由は全くない。原告は、昭和五七年にいわゆる第二次の家賃増額請求をしたが、その際には入居後満五年以下の住宅への増額請求はしていない。また公団住宅の家賃増額も、入居後五年以下の団地はその対象から外している。この点からみても、原告の同住宅に対する本件値上げは不当である。

(四) 特定引当金工事について

同住宅において施工された特別修繕費などの特定引当金工事は、原告の主張によれば、落下物防止金網一〇八〇万円、ドアチェック取付け一七三万円など合計一二六七万円とされるが、これらは、請負業者に転嫁することのできない瑕疵又は住棟内の改良であり、当然に、特定引当金による備忘価格による計上がなされるべきものである。また、同住宅の敷金総額は二八六五万円余(一戸当たり七万二〇〇〇円×三九八戸)もあり、四、五年程度の運用益(非課税)で右の特定引当金支出を賄うことができるはずである。

2 青葉町第二住宅の維持管理費の収支状況

(一) 修繕費

(1) 同住宅の修繕費も、本件値上げ当時黒字であつた。原告の主張によると、同住宅の管理開始年度である昭和三八年度から昭和五〇年度までの修繕費収入は、二〇六三万円である(別表一〇の3、別表一二)。これに対し、その間の修繕費支出の合計は九六八万円(別表一二)であつて、額にして一〇九五万円、率にして五三パーセントの黒字となつている。しかも支出のうち、一般修繕として支出されたとする八三〇万円(別表一〇の3)の大部分は、実施時期、実施箇所が不明であつて「修繕」の事実すら明らかでなく、また家賃とは別に徴収されている共益費から支出されたと思われるものや、環境整備費から支出されるべきものも含まれており、これらを一般修繕支出額から控除すれば、黒字幅はさらに増大する。加えて、同住宅は、地下一階から地上四階までを東京日産販売株式会社(以下「東京日産」という。)が所有、使用し、四階以上を被告らの住宅にあてている区分所有建物であるところ、一般修繕とされているもののうち、電気工事関係の項目のほとんどは、同会社のための「修繕」と思われるのであり、これをも除外すれば、維持修繕費の黒字はさらに大きくなる。

(2) 原告の主張に従つて、同住宅の昭和五〇年当時の黒字額が一〇九五万円であつたとしても、一戸当たりでは約一五万六〇〇〇円の黒字であり、一〇万円蓄積の希望額を超えている。

(二) 管理事務費

原告の主張によると、同住宅の管理事務費収入は、昭和四一年度の原告発足以来昭和五〇年度までで合計約四四〇万円、月額一戸当たり五二五円(別表八の1、2)である。これに対し、同期間内の総支出額は約七〇一万円、一戸当たりの月額平均支出額は八三四円(同表)に過ぎない。同住宅の昭和四〇年度以前の管理事務費収入は示されていないが、これをも算入すれば同住宅の平均支出額がさらに低下することは明らかである。

しかるに原告は、これを一気に実支出額の2.4倍の月額一戸当たり二〇〇七円、年額一六九万円に増額しようとするのであり、その必要性はない。

(三) 償還完了時期無視の増額請求の不当性

(1) 各住宅の家賃構成要素の中には公庫貸付金の償却の額が含まれており、青葉町第二住宅の場合、償却額は一戸当たり月額九九五二円となる。そして同住宅は昭和五三年一〇月までには公庫、東京都各借入金の償還がいずれも完了しており、右償還相当額は原告の現実の収入となつている。従つてこの点からも同住宅への公庫法規則一一条五項適用の必要性はない。

(2) 昭和五七年度のいわゆる第二次値上げでは、同住宅を始めとする償還完了住宅への増額請求はしていない。これは償還完了団地については値上げの根拠のないことを原告自ら認めたもので、本件値上げの不当性を示すものである。

3 昌平橋住宅の維持管理費の収支状況

(一) 修繕費

(1) 原告の主張によれば、同住宅の昭和四一年度から昭和五〇年度までの修繕費収入は、合計一一〇一万円(別表一〇の1、別表一二)である。これに対し、同期間内の同支出額は、合計六七二万円(別表一二)であつて、額にして約四二九万円、率にして約三九パーセントと大幅な黒字となつている。しかも支出額の大部分を占める一般修繕費六三六万円の中には、修繕したとは考えられないもの、瑕疵補修として請負業者が負担すべきもの、環境整備、特別修繕項目であるもの、共益費から支出されたと思われるもの等、修繕費から支出すべきでないものが数多く含まれており(昭和四一年度の鉄柵設置、同四二年度の案内板設置、同五〇年度の歩道橋鉄柵修理等)、これらを除外すれば、黒字はさらに大きくなる。また同住宅の建物は被告らのほか社団法人東京都交友会(以下「交友会」という。)事務所等が使用するいわゆる雑居ビルとなつているが、被告ら居住者と他の使用者との修繕費の負担割合が不明確で、他の使用者が負担すべき修繕費が居住者負担になつている疑いが濃い。これを詳細に検討したら、一般修繕費支出はさらに減り、黒字がより増大するはずである。

(2) 同住宅は、地上四階まで交友会の所有にかかり(ただし一階の一部は東京都の所有である。)、その事務所ないし娯楽室及びその賃貸に係る諸会社と修繕費を分担しているのであるが、同住宅発足の当初から長年にわたり、一階にある事務所部分の管理事務所が賃貸住宅の維持修繕に関する事務も事実上取り扱い、原告もこれを当然の如く利用するという事態であつて、支出諸費用の区分整理は、ずさんを極めていた。そして、昭和五四年以前は、住宅管理人からの修繕請求は一件も出されず住宅管理人室に修繕伝票が置かれるようになつたのも、昭和五二年四月以降のことである。また、地下一階部分が交友会に譲渡されるのと同時にこれに附帯する電気、水道等の設備も交友会に譲渡されたために、公社住宅賃借人は、交友会の諸設備を、「利用させていただく」というような関係となつている。従つて、例えば共益費に関しても、事務所部分だけで使用されている蛍光灯の年間数百本の代金が、住宅の共益費から支出されるなどのこともあつた。

(3) 原告の主張によつても、同住宅の黒字額は昭和五〇年度当時一戸当たり約一〇万二〇〇〇円であつて、その蓄積希望額一〇万円を超えている。

(二) 管理事務費

原告の主張によれば、同住宅の管理事務費収入は、昭和四一年度から昭和五〇年度までの間合計で約四三一万円、月額一戸当たり八五四円(別表八)である。これに対し、同期間内の総支出額は約四一四万円、一戸当たり月額平均支出額は八二一円(同表)で、同住宅の管理事務費は黒字を計上している。従つて、もともと増額の必要性はなく、まして原告が主張する月額一戸当たり二五五一円に増額する必要性などない。

4 江古田住宅の維持管理費の収支状況

(一) 修繕費

(1) 原告の主張によると、同住宅の昭和三五年度から昭和五〇年度までの間の修繕費収入は、合計約三八七四万円(別表一〇の2、別表一二)、同期間内の同支出額は、合計約六四八七万円(別表一二)で、差引二六一三万円の赤字になつているというが疑問である。

(2) 同住宅の入居開始は昭和三三年度であり、同年度中には半数以上が入居している。従つて、正しくは原告主張の昭和三五年度の一年半前から修繕費収入があつたのであり、これを収入として計上しなければならない。また原告は、同住宅の年間修繕費収入は二四二万円と主張している(別表一〇の2)が、昭和五〇年度賃貸住宅営繕工事予算執行状況によれば約二五四万円となつており、後者の方が作為がなく、より信用できると思われる。そうすると、同住宅の昭和三三年度途中から昭和五〇年度までの修繕費収入は少なくとも合計四四四五万円(254万円×17.5年)以上であつたと言うべきであり、五七一万円の収入増となる。

(3) 修繕費支出についてみると、「一般修繕の主な内容」項目のうち、その五五パーセントにあたる項目は団地整備費として支出されるべきものであり、その他の項目も特別修繕費、共益費から支出されるべきものが多く含まれている。全体の三分の二強の項目は、一般修繕として修繕費から支出されるべきものではない。一般修繕項目もそのほとんどが修繕内容、修繕箇所の不明なものばかりである。一般修繕として五〇一一万円支出したとの原告の主張の根拠はなく、同住宅においても修繕費は黒字である可能性が大きい。居住者負担とすべきでない項目は、具体的には、次のとおりである。

(ア) 住宅の構造的欠陥によるもの

① 屋上防水(昭和三五年度、同四〇年度、同四一年度、同四五年度)

② 焼却炉煙突工事(昭和三五年度、修理を指すと思われるが建築直後に修理するのは欠陥工事以外の何ものでもない。)

③ ブランコ塗替え(昭和三七年度、新設後三年経過して塗り替えるのが通常である。)

④ 公園金網塗替え(昭和三七年度、新設後五年経過して塗り替えるのが通常である。)

⑤ ダストシュート屋根取替え(昭和四〇年度)

(イ) 住宅の計画欠陥によるもの(本来住宅建築時点で備えていなければならなかつた各種設備であり、団地整備費として原告が負担すべきものである。)

①砂場新設、焼却炉新設、外燈新設(昭和三六年度)、②砂場新設(昭和三七年度)、③焼却炉新設(昭和三九年度)、④外燈増設(昭和四一年度)

(ウ) 団地整備費として原告が負担すべきもの

①案内板書替え(昭和三九年度)、②樹木剪定、倒木起こし、外燈修理(昭和三九年度)、③倒木起こし(昭和四〇年度)、④焼却炉煙突取替え(昭和四一年度)、⑤金網棚移設(昭和四二年度)、⑥焼却炉改修、金網棚ペンキ塗替え(昭和四三年度)、⑦倒木起こし、金網補修、樹木手入れ、害虫駆除、外燈改修(昭和四四年度)、⑧ベンチ改修(昭和四五年度)、⑨藤棚改修(昭和四五年度)、⑩焼却炉改修、遊具補修、樹木剪定、案内板改修(昭和四六年度)、⑪道路補修、樹木剪定(昭和四七年度)、⑫焼却炉移転工事、防虫駆除、樹木剪定(昭和四八年度)、⑬樹木剪定(昭和四九年度)、⑭倒木起こし、車止設置、滑り台補修、砂場補修(昭和五〇年度)、⑮集会所ステンレス流し、サッシ購入(昭和四九年度)

(エ) 現実に行われていないことが明らかであるもの

物置新設(昭和三六年度)、万年塀改修(昭和四四年度)、ダストシュート金網張り(昭和四七年度)、電極回路配線工事(昭和四九年度)

(オ) 電々公社が負担したもの

電話配線工事(昭和四九年度)

(カ) 居住者が雑費として一部負担したもの

焼却炉煙突工事(昭和三五年度)、外燈修理(昭和三九年度)、藤棚修理(昭和四五年度)、樹木剪定(昭和四七年度)

(4) 原告が一般修繕として掲げている工事は、工事箇所や規模、工事費が明らかにされていないので断定できないが、いずれも小規模の工事であり、費用のかさむ工事とは思えないものばかりである。従つて、一般修繕費総額には過大な水増しがあると推定される。特に、昭和四八年度から本件値上げ時点の昭和五〇年度までの修繕費の支出超過は、六一〇六万円と異常に膨張しているのであるが、修繕内容をみても、そのような巨額な工事費がかかるとは到底考えられない。原告作成にかかる「江古田住宅昭和四九、五〇年度修繕実績表」によつても、昭和四九年度実施された揚排水ポンプ制禦盤改修工事費は二三万円、浴室排煙孔工事費は一四七万五五〇〇円、滅菌器取替工事費は一〇万一五〇〇円、昭和五〇年度に実施された砂場補修費は四五万円に過ぎない。その余の工事費も、例えば昭和四九年度の集会所ステンレス流し購入は、わずか一台であり、費用はたかだか一万円にも満たない。また、昭和五〇年度の修繕費支出のうち、大きなものは集会場新設、自転車置場新設であつて(集会場新設五六七万四五一〇円、自転車置場新設三七五万円)、これらはいずれも原告が新しい財産を取得したことになり、団地整備費として原告が負担すべきものである。

(5) 風呂場とトイレの境戸の腐蝕、風呂場と台所の境戸の腐蝕、流しの水漏れ、窓ガラスのパテ落ちによるガラスの破損、ドアのゆがみによる鍵の取替え、吸水パイプの腐蝕による取替え、雨漏りによる壁の塗替えや、襖、畳、布団、照明器具、じゆうたんなどの取替え等は、建物の構造的欠陥のために居住者が自費でたびたび修理、修繕を強いられているものである。

(二) 管理事務費

原告の主張によると、同住宅の管理事務費収入は、月額一戸当たり二一二円(別表八)、原告発足の昭和四一年度から昭和五〇年度までの平均一戸当たりの支出月額は、八二六円(同表)であり、その限りでは赤字である。しかし本件値上げはそれを一気に一三三〇円、年額五四九万円に増額するというものであり、そこまでの増額の必要性はない。

(三) 償還完了財源算入による増額請求の不当性

(1) 同住宅の公庫貸付金の償却の額は、平均月額三七七八円である。住宅の耐用年数は七〇年であるから、原告は、公庫、東京都への償還完了後三〇年間の長期にわたり自由に使用できる財源を持つ。そして、原告は、この額については既に維持管理費に充当している。仮に、同住宅のこれら償還相当額から窓枠改修借入金約一億三七〇〇万円(一戸当たり三九万九〇〇〇円×三四四戸)を差し引き、残りを修繕費分として一〇、管理事務費分として四の割合で振り分けると、

修繕費 二億三六一五万円

管理事務費 九四四六万円

となる。これらはすでに管理費の収入予定財源となつており、これを七〇年間全耐用期間に充当底上げすると、同住宅の昭和五〇年度までの修繕費収入額は次のとおり増加することになる。

修繕費 五九〇四万円

管理事務費 二三六二万円

原告は、同住宅の修繕費は二六一三万円の赤字である旨主張するが、右の通り昭和五〇年度までの収入額は一億〇三四九万円になり、その支出額は原告主張のとおり六四八七万円としても、約三八六二万円の黒字となる。また、管理事務費においても一戸当たり月額五三九円となり、二八七円(支出額は月額八二六円)の赤字に止まる。

(2) 償還完了までの間多少の資金繰りを必要とすることは否定しないが、巨額な退職金引当金等の内部留保の運用等によりその資金繰りは十分可能である。

(四) 特定引当金工事財源について

原告は、同住宅に関し三八六三万円の特定引当金支出があつた(別表一三の2)とするが、同住宅では敷金利息収入の外、昭和五三年に同住宅に付随する土地約百坪を少なくとも右支出額以上の価額で売却しており、この程度の支出をしてもなお相当の余裕があるはずである。

九  公社住宅総体での維持管理費の収支状況にみる公庫法規則一一条五項適用の不当性

原告が主張するとおり、公庫法規則一一条五項の必要性について、全公社住宅を総体的、総合的にとらえて判断すべきであるとしても、同条項適用の必要性はない。

1 修繕費

(一) 原告が発足した昭和四一年度から昭和五〇年度までの修繕費(修繕引当金)は累積で三億四〇〇〇万円の黒字を計上している。さらに原告の前身である東京都住宅協会、東京都住宅公社時代からの累積では、昭和五〇年度当時約七億四四〇〇万円の黒字を計上している。

(二) これを単年度で見てみても、昭和四一年度から昭和四七年度までは漸増しており、昭和四八年度においても六五〇〇万円の黒字を計上していた。

(三) 原告は、昭和四九、五〇年度になつて単年度収支が赤字になつたと主張するが、仮に右両年度において赤字になつたとしても、それは、原告が、

① あらかじめ昭和四九、五〇年度の予算編成時に赤字を予定して修繕予算を編成し、

② 修繕とは全く関係のない窓枠取替えのついでに修繕周期と無関係な外壁塗装を実施し、

③ 新たにこの間集中して実施した排煙孔、電話配線などの改良をすべて修繕費に算入し、

④ 昭和四八年度まで特定引当金による改良工事としていた給水塔の新設を修繕費として新たに算入し、

⑤ 万年塀、遊具、焼却炉等々の団地整備を修繕費に算入し、

⑥ 事業外収益の修繕引当金への配分を停止する

など、本件値上げを強行するために、ことさらに修繕引当金減らしを行つて作り出した赤字である。正当な支出を行つていれば、赤字になるはずがないのであつて、右赤字をもつて本件値上げの理由とすることは、信義則に反し、許されない。

2 管理事務費

管理事務費の赤字は、昭和四九年度三億八九〇〇万円、昭和五〇年度四億二七〇〇万円とされている。しかし、仮に赤字だとしても、それは原告のずさんな管理、異常に高額な人件費、経費削減のための努力の欠如等によつてもたらされたものであり、その責任はあげて原告にある。家賃増額という形で、被告らにその責任を転嫁するのは、信義則違反、権利濫用であつて不当である。

一〇  江古田住宅の欠陥建物と信義則違反について

本件四団地中、唯一の支出超過が江古田住宅とされている。しかし、同住宅は居住には不適格な欠陥住宅であり、欠陥住宅に居住させておきながら、賃料増額を要求することは、信義則に違反し、もしくは権利の濫用であつて許されない。

1 建物の主な欠陥について

(一) 妻壁(コンクリート)に亀裂が発生し雨漏りの原因になつている棟が幾棟かあるが、これはコンクリートの打継部分かジャンカ部分(空洞部分)に欠陥があつたために入居時点から雨漏りがあつたものである。

(二) ほとんどの住戸床スラブ下端に亀裂がある。しかもその亀裂を通して雨水が漏れている例もある。亀裂の位置、性状からみてスラブのたわみによる亀裂と考えられるが天井が二重天井の仕上げでないのであるから入念にコンクリート打設を行うべきであつた。

(三) 建物長手方向にスパン中央でシンダーコンクリートに亀裂が入つていることからみて、ルーフ・スラブが中央でたわみ、防水層が破断したものと推測される。そのため、雨漏りが発生している。

(四) 床コンクリートスラブの中や、スチールドア枠の周りに紙屑が詰め込まれていた。そのためその部分から雨水が侵入し、雨漏りを誘発している。

2 設計の不備について

昭和四二年度の屋上給水槽増設は、全額修繕費名目で居住者の負担となつているが、これは設計段階における使用水量算定の誤りによるもので、本来居住者の負担にすべきものではなかつた。

3 管理不備について

(一) 現在でも多くの住戸で雨漏りのあることが確認されている。しかも、漏れてくる水が錆を含んでいて赤いところから、コンクリート中の鉄筋が錆びているものと考えられる。さらに雨漏りによつて、内装壁にかびがはえたり、汚れたりしてその副次的損害ははかり知れない。

(二) 木製窓についても一度も塗装しておらず、木材の腐蝕は極度に進み、窓枠の寿命は著しく短くなつている。

(三) 非常階段出入口鉄製ドア及びその枠も、鉄部のペンキ塗替えと同じく計画的に行われていなかつた。

(四) 構造上、ベランダ、庇の支柱は応力を負担させる建前になつていないと思われるが、実際には支柱に応力がかかつている。その支柱が管理不備で腐蝕し、昭和五六年まで放置されていた。

(五) 鉄部の塗装は、入居以来、本件値上げ時点の昭和五〇年度までに一度だけ実施されているが、一度の塗装だけでは不十分であり、その結果かなり錆が浮き、早い時期に錆びていた部分は相当に腐蝕が進んでいた。そのためペンキ塗替えのために通常の場合以上に多額の工事費を必要としている。

(六) 建物外装塗替えは、入居以来、本件値上げ時点までに一度も実施されていない。その結果、コンクリートの外壁を保護し一部防水の役目も負つているペンキが剥れていたことによつてコンクリートの中性化が通常以上に進み、雨漏りの原因となつている。

4 江古田住宅の欠陥は、居住者の再三の要求にもかかわらずほとんど放置されていた。これらの欠陥のため、建物の痛みが著しく雨漏り、窓枠の腐蝕、手すりのがたつきや、錆、天井や壁の亀裂が生じ、特に雨漏りによる湿気のため皮膚湿疹、ぜん息、アレルギー性鼻炎など直接人体に影響を及ぼしているほか、かびの大量発生により生活上多大な不快感を与えている。また、前記のような構造的欠陥や設計、計画上の欠陥のため、あるいは維持、管理が極めて無計画であり、普通に計画修繕していれば住宅そのものの寿命を長く維持できるのに、それがなされていないため、不必要な修繕費を支出する結果となつており、結果的には居住者の受けた利益のために管理費が支出されているというよりも管理不備と構造的、設計、計画上の不備のための支出となつている。

5 賃貸借契約における賃貸人の義務の主要なものは、目的物を賃貸人の使用収益に適した状態におかなければならないことである。従つて、江古田住宅のような使用収益に適さない構造的欠陥を持つた物件の提供は、賃貸人の義務違反というべきである。さらには、賃貸人には欠陥補修の義務があり、賃借人は修繕されないために使用収益ができない割合に応じて欠陥が補修されるまで賃料の全部又は一部の支払を拒む同時履行の抗弁権を有し、また、使用収益ができない割合に応じて賃料が減額されるとするのが判例である。民法六一一条は、賃借物の一部滅失の場合は賃借人は滅失の割合に応じて賃料の減額を請求できることになつている。従つて、本来のような構造的、計画的欠陥住宅が長年の間放置されている場合、居住者に賃料減額の権利はあつても増額に応ずるべき義務はない。

(被告らの主張に対する認否)

すべて争う。

(原告の反論)

一  本件値上げの法的根拠について

1 本件値上げは、借家法七条に基づくものである。

(一) 原告と被告ら居住者との関係は、民法上の賃貸借契約関係であつて、民法、借家法の規定が適用されるものである。原告としては公社法等の適用を受けており、従つてこれらの規定により一定の制約を受けざるを得ないが、右規定は原告の業務運営に対する規定であつて、被告ら居住者との間の権利義務を定めたものではない。

(二) 昭和五七年五月の法令の改正によつて、公社法規則に一六条の二(家賃及び敷金の変更等)が追加され、家賃、敷金を変更、値上げすることができることが明らかになつた。これは、借家法七条によつて家賃の増額請求ができることを確認的に規定したものである。

2 借家法と公社法、公庫法との関係

(一) 原告と被告ら居住者との関係に適用される法律関係は借家法である。公社法、公庫法は、専ら、原告がその事業運営上適用を受けるものであり、原告と被告らとの間を直接規定するものではない。被告らの、あたかも公社法、公庫法が直接原告と被告らとの間の賃貸借関係自体に適用されるかのような論旨は、その根本において誤りである。

(二) 原告の目的は公社法一条の規定するところではあるが、だからと言つて右規定が直ちに借家法の規定を排除ないし修正するものではない。ただ、原告が公社法または公庫法の規定に従う結果として、間接的に被告らとの契約関係に影響が及ぶ場合もあるというに過ぎない。

(三) 家賃値上げの理由については、公庫法規則一一条各項号の規定に制約されるものではない。同条各項号は家賃額の算定の基礎を定めたものに過ぎない。

3 公社法と賃料増額請求権

被告らは公社法に賃料変更についての規定がないと言うけれども、家賃算出の基準について定めがあり、その要素をみれば、修繕費にしろ、管理事務費にしろ、また地代、損害保険料、空家等損失引当金、公租公課等どれをとつても、年々変更があるものである。被告らの言うとおり公社に家賃変更の権限がないとすれば、右要素はすべて「住宅建設当初の金額に限る。」旨の規定がなければならないが、そのような規定はない。

4 原告の業務における賃貸住宅の占める割合について

原告の昭和五五年度までの総建設戸数は、次のとおりであつて、住宅の賃貸業務が例外的なものであるという被告らの主張は当たらない。

賃貸住宅 五万六二九〇戸(事業費二四二四億九〇五六万六〇〇〇円)

分譲住宅 一万八九四九戸(事業費一四五二億五八九七万円)

産業労働者住宅 二二四四戸(事業費四七億〇六〇三万六〇〇〇円)

宅地分譲 六七一三区画(事業費一六二億三二〇三万円)

5 公社法規則一六条一項について

公社法規則一六条一項に定める八項目は、公租公課「等」とあるとおり、限定列挙ではない。また、これらを「基準として」とあつて、必ずしもこれに限定拘束されるものではない。地方公社は、右要素等を基準としつつ、独自に家賃を設定し得るものである。さらに、同条は、右一項に続いて二項を規定しており、「前項の規定により難いときは、都知事の承認を得て、家賃を別に定めることができる。」と定めている。被告らの主張は、法律及び規則の規定を無視するものである。

6 公社法と公庫法との関係

公社法二四条は、「他の法令により特に定められた基準がある場合においては、その基準に従う。」としているから、公庫法が優先適用されることは、明らかである。

7 比準賃料について

原告と被告らとの間には借家法が適用されるのであるから、家賃値上げの理由の一つとして比準賃料との比較が挙げられるのは当然のことである。公社住宅の賃料構成要素は公社法規則一六条一項の八項目に限定されるものではなく、その金額も原価そのものに限定されるものではない。また、原価は原則として当該住宅ごとのものではあるが、必要に応じ変更、修正が加えられる余地があり個々の住宅に限定されるものではない。

8 家賃値上げと相当期間、事情変更の原則との関係

(一) 家賃の増額請求が認められるためには、一般に既存家賃決定の時期から相当期間の経過を要すると解されているが、具体的にどの程度の期間の経過を要するかについては、他の増額の要素との兼ね合いにより、一律には決し得ないものである。

(二) 本件において、賃貸借契約締結時から本件値上請求時までの期間が一年未満の被告が六名いるが、そのうち最も短い期間のもので約五か月である。しかし、当初の賃貸借時から長期間にわたり一度も値上げされないまま経過してきたこと及び原告の公共的性格と集団的、公平的取扱いを要求される立場上、新規賃貸借の都度個々的に家賃を値上げすることが制度的に不可能であることを考慮に入れるならば、たとえ相当期間の経過が五か月であつても、借家法七条に違反するものではない。

(三) 借家法七条は事情変更の原則の具体化であると一般に解されているが、既存家賃を不相当とする事情の変更は、必ずしも既存家賃決定時以後に生じたことを要するのではなく、その前後を問わず経済変動があり、既存家賃をもつて当事者を拘束することが不衡平であればよいと考える。

二  総体的取扱いについて

1 家賃額の構成要素である維持管理費の額は、個別団地ごとに決まる。原告は、このように個別団地ごとに決められた維持管理費を集計し、全団地を総体的に判断してその支出を行つている。

2 公庫法規則一一条一項二号、五項は、家賃額算出の基礎とするだけであつて、家賃値上げの理由としては、全公社住宅の総体的判断に係ることになる。

3 原告が全公社住宅の維持管理費を一括プールして経理処理を行つていることは、修繕ないし管理事務の経費が賃貸開始以後経年増加している事実から、全公社住宅の平均的な維持管理を意図しているからである。新設住宅の修繕費については、その団地だけを抽出すれば、あるいは、一時的には余剰を生じようが、新設住宅といえどもいずれは老朽化することが必然であり、その際には家賃収入を超過しても住宅機能の維持を保証せざるを得ないからである。

4 被告らは、使用収益権のない他団地の、その住民によつて発生した修繕費等の諸費用をも負担しなければならないことになつてしまうと主張するが、やがては経年によつて自らの住宅の修繕費が増大し、赤字に至つた場合には、他団地の居住者が支払つた修繕費をもつて修繕を受けることになるのが必至であるから、被告らの主張は一現象面をとらえた主張に過ぎない。

三  推定再建築費算出率の合理性

推定再建築費算出率は、公営住宅法に基づき、公営住宅の家賃に算入すべき修繕費、管理事務費の額を算定するにあたり、建設省が毎年一回定める率に準拠して公庫が定めたもので、これは各年維持管理に要する費用が増加し、適正な維持管理を将来にわたつて確保するため、物価上昇による建築費の修正を行う数値であつて、十分な合理性がある。

1 推定再建築費算出率は、公営住宅法施行規則六条においては、「家賃の変更に係わる修繕費及び管理事務費に係わる率」と規定され、維持管理費の算出根拠とされているものであり、同規則七条においては、「公営住宅または共同施設の譲渡に係わる率」と規定され、譲渡価格の算出根拠とされているものである。従つて、右推定再建築費算出率によつて算出された推定再建築費は、維持管理費及び譲渡価格双方の算出に法的根拠を持つものであつて、それなりに相当性を有するものである。

2 当初の家賃額設定に関し、その構成要素である維持管理費については、公庫法規則一一条一項二号において、建築費に千分の1.4を乗じた額と定められているところ、年数の経過に伴う維持管理費の膨脹によりその変更の必要を生じたときの維持管理費の額を算出する根拠として、当初の建築物を再評価し、現時点における建築費を算出し、これによつて得られた建築費に千分の1.4を乗じた額をもつて定める方式の合理性を否定する理由はない。

3 また、被告らは、推定再建築費は建築物の基本構造及び使用器材、施工方法等の違いを全くといつていい程無視して一律に再建築費を推測したものであると主張しているが、推定再建築費算出率を決定する作業においては、これらについて代表標目を掲げ、これを比較検討することによつて具体的な数字を算出しているのであるから被告らの非難は当たらない。

4 原告は、推定再建築費を用いることによつて、利潤を生むものではない。

5 原告は、公庫法規則によつて、仮に現実に維持管理費を如何に多く要したとしても、推定再建築費によりその額は固定されている。もし、これを現実に要した額に見合つた額とするのであれば、個々の団地の格差が生じることは明らかであり、反面清算の問題も絡み、総体的団地の運営という観点からはいたずらに混乱を招くことになる。

6 推定再建築費は当初の建築費の原価を現時点に引き直した建築費原価と言うべきものであつて、あくまでも原価主義に立脚していることにおいては変わりはない。

7(一) 「中高層共同住宅総合調査報告書」には、大規模修繕積立金の一戸当たり月額が平均一七〇四円である旨記載されている。

(二) 右調査報告書の調査対象は民間分譲マンション二万五四〇〇戸、日本住宅公団分譲物件二六〇〇戸である。そして右調査報告書には、二〇年間に必要となる修繕を積立金によつて計画的に行うための一戸当たり修繕積立金月額は四〇〇〇円ないし五〇〇〇円が一般であること、この不足分は大規模修繕時に特別に徴収するか、あるいは実施すべき修繕工事を延期または中止することで埋め合わされることになり一部は借入金で補われていること、このように修繕費積立金が少額であることは、分譲に際して分譲業者(民間の場合)の説明不足にも責任の一端があること、このことは一団地当たりの積立金累計額でみると、東京圏においては、民間の約四四八万円に対して、公団は約二五九五万円と著しく高くなつているが、これは公団の場合、分譲に当たつて積立金について指導が行われていることのほか、一団地の規模が民間に比べて大きいことが考えられること、また、東京圏における一人当たり積立金額を供給主体別でみると民間が月額約一七五七円であるのに対し、公団は約二五七三円と高くなつていること等が述べられている。

(三) このように、右調査報告書の中高層分譲住宅(主として民間分譲マンション)の場合と原告の賃貸住宅の場合の修繕積立金については、経過年数、入居条件、団地規模等がそれぞれ異なるし、分譲の場合は大規模修繕に限られているから、同一に論じられているものではない。ただ、いずれの場合にせよ、計画的に修繕を行う必要があることだけは共通しているのであつて、この場合、右調査報告書によれば、前記のように一戸当たり月額四〇〇〇円ないし五〇〇〇円の積立てを要するのが一般であるとされている。因みに、昭和五〇年度における原告全団地の一戸当たり修繕積立金は、月額約一三二八円である。

四  維持管理費の財源について

1 本来、公社住宅の維持管理に要する費用は、総て家賃からの収入により賄うべきである。しかも、公庫法規則一一条にある家賃額は利潤を含まない原価的なものに限定されているから、原告としても家賃中の修繕費以外には修繕費を生み出す余地はない。確かに、原告がこれまで行つた修繕の財源には、家賃に含まれる修繕費のほかに、特定引当金や東京都からの補助金があつた。しかし、特定引当金については、原告の過去の企業努力により生じた事業外収益から積立てられたものであり、また、東京都からの補助等による環境整備事業についても、たまたま東京都からの財政援助があつたもので、いずれも今後とも引き続いて期待し得る財源でもなければ、当然修繕に振り向けられるべき財源でもない。しかも、財源の如何にかかわらず修繕の実施によつて各住宅はそれだけの利益を受けているのであるから、これを住宅の維持保全等のために必要であつた修繕費とすることは当然のことである。

2 特定引当金の制度ができたのは昭和四一年度以降であるが、原告の総体的事業運営の中で、土地売却益、受取利息等事業外収益が、決算上、管理事業損失及びその他事業外費用を差し引いて余剰がある場合に、被告らを含む全居住者の利益を図るために必要性の高いものから一定の引当目的を設定し、特定引当金としてこれに繰り入れているのである。従つて、土地売却益がある年もあればない年もあり、また敷金の利息について言えば、すべてこれが特定引当金の財源に繰り入れられるというものではなく、賃貸住宅管理事業の赤字に充てられ特定引当金の財源にならない場合もあるのであつて、特定引当金の財源は一定性がなく、これを恒常的に修繕費の財源と定めることはできない。

五  公庫法規則一一条五項の解釈について

1 公庫法規則一一条五項は、原則として個別団地を対象とした規定と解されるが、それは、一般民間人、民間業者を含めて、公庫の融資を受けて賃貸住宅を建設するものすべてを前提としているためであつて、原告のように同一主体が多数の団地を所有賃貸しており、その全団地間の総体的運営を図り可能な限り全団地の公平化と均等な住宅環境をめざす必要が認められる場合においては、同条五項の「公庫の貸付金に係る住宅」の意味を「公庫の貸付金を受けて建設した原告の全賃貸住宅」と解すべきものである。

(一) 原告が所有する賃貸住宅の数は、昭和五五年三月三一日現在で団地数一三二、賃貸戸数五万四三二一戸にのぼつている。このような、多数の団地を管理運営しているから、各団地ごとの維持管理費の算出は、原告の団地管理運営上不可能でもあり、合理性もない。

(二) 管理事務費については、各組織部門の原告職員が相互に連携して直接間接に団地の管理運営に当たつているのであつて、各団地ごとの職員数や必要経費の算出は不可能である。

(三) 修繕費については、請求原因記載のとおり、新設住宅も既設住宅もすべて総括してその修繕費を計上し、必要団地ごとに必要額を支出し、有無相通じ、各団地とも良好な住宅環境を維持するという方法をとらざるを得ない。新設住宅の家賃中の修繕費が右のように公社住宅全体として一括運用される結果、既設住宅の修繕費に充てられることがあつても、やがては、当該新設住宅も経年によつて修繕を要するようになり、その時は他住宅の修繕費もあわせて修繕を受けることになるのであるから、結局のところ負担は公平化、合理化されるのである。そして、家賃に含まれている右修繕費は、会計上も修繕引当金として一括計上され、総団地の維持修繕にだけ使用されるのであつて、他の費用に充当されることは一切ない。従つて、値上げの結果当面収支が黒字であつても、それはすべて将来の修繕費として積み立てられているのであつて、結局は各居住者に還元されるものである。むしろ、修繕費が黒字であることこそが新設住宅の不使用分の積立て等からして当然なことであつて、将来の不測の事態に備える意味から言つても、また、計画修繕を円滑に行い得ることから言つても正常な状態であり、かつ、必要なことである。

(四) このように解することによつて、公社住宅全体を総合して能率的かつ合理的な維持管理を行い得るのである。また、右のような解釈によつて、不合理な結果が生じることもなく、その他の法律規則に違反することもない。

2 同条五項の「公庫の貸付金に係る住宅」を、各個別団地と解した場合には、以下のような問題を生じる。

(一) 同規則に定める家賃構成要素のうち、住宅の維持管理に要する費用は、建設費の一定割合と定められているに過ぎないが、住宅の維持管理に要する実費が常に右一定割合の範囲内に限られるという保証は全くない。また、逆に、家賃構成要素に相当する額の範囲内でのみ維持管理をすれば足り、それ以上の費用を要する修繕をする必要がないと言うわけでもない。

(二) 現行の修繕費の乗率である月額千分の一、年額千分の一二は、公営住宅、公団住宅すべて同率とされている。ところが、昭和三〇年四月、日本建築学会建築経済委員会は、「耐火建物の維持保全に関する研究」をまとめて発表したが、同研究による維持修繕に要する乗率は、年額千分の32.4と算定されており、前記の乗率の実に2.7倍に相当する。しかも、右年額千分の32.4は、建築当初の建築費を基礎とするものではなく、いわゆる再建築費を基礎とするものである。このことは、現行の千分の一が修繕の必要性に適応しない極めて低率に抑えられていることを示すものであつて、建築費、修繕費、その他すべての物価や人件費が毎年相当の率で上昇する昨今においては、推定再建築費を基礎としても、修繕の水準を維持することはできない。

(三) 推定再建築費算出率についても、公営住宅に適用されるべき率をそのまま準用している。公営住宅は、「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸する」(公営住宅法一条)目的から、その家賃も政策的に定められ、原価的要素すら否定したところに成り立つているものである。しかも、右率は、建設年度ごとに一定率として定められており、各団地の実情とは全く無関係に定められている。

(四) 一方、修繕費の支出は、各団地の個別事情によつて差があるだけでなく、経年によつて急激に膨脹していくものである。修繕の必要の増大と物価の上昇による修繕費単価の膨脹との相乗効果により修繕費はますます高額となり、それまで積み立てられた分は急速に取り崩されて赤字化する。支出の増大が必然的でありながら、その収入は当該住宅の家賃収入の一定額しか財源がないとすると、その修繕は行いようがない。

(五) 逆に、実情に即応した原価主義を採用したとすれば、個別団地ごとの実情によつてその負担額はまちまちとなり、各団地間の均衡を保つことは不可能となる。けだし、住宅の修繕費は、各団地の個別的実情によらざるを得ないし、ことに、経年変化の結果増大する修繕費を当該団地の家賃のみにおいて負担支弁するとなると、古い住宅ほど高額な家賃を設定せざるを得ない結果となるからである。これは個別団地主義を貫く以上必然的な不均衡である。

(六) 経理面においても、各個別団地ごとに収支を分離せざるを得ないことになるが、各個別団地ごとに修繕費を算出する機構をとるとすれば、事業経営の効率を著しく悪化すると共に、膨大な支出を強いられることになる。現行経理制度では、支出に当たつて右のような個別団地別経理は全く要求されていないが、このことは、右のような個別団地経理によつて惹起される経営の非能率、経費の増大を避けるという消極的意味に止まらず、住宅の維持管理を均等に行い、全団地に平均的な良好な環境を保持し住宅の維持を図ることをめざすという積極的な意味を含むものである。共益費のように、各個別団地ごとに経理をしてその収支を明らかにし、他の団地に流用することが禁止されている場合とは異なる。

六  公庫法規則一一条五項適用の必要性について

1 公社住宅全体としての維持管理費について、本件値上げ前後の収支状況は別表一六のとおりであるが、昭和五二年度以降について、仮に、維持管理費について公庫法規則一一条一項二号を適用した場合は、新規住宅増加による収入増額を除けば、昭和五〇年度とほぼ同額の収入しか挙がらないから、収支が赤字を免がれないことは明らかである。

2 このうち、本件四団地について、公庫法規則一一条一項二号を適用した場合の維持管理費の額と、同条五項を適用した場合の維持管理費の額は別表一七(賃貸住宅維持管理費計算表)のとおりである。ただし、同条一項二号を適用した場合の維持管理費の額は、年度に関係なく、一定であるが、同条五項を適用した場合は、毎年度に公庫から推定再建築費算出率が通知されるため、維持管理費の額も年度によつて相違する。よつて、別表一七には、本件値上げ時だけでなく、その前後の年度における推定再建築費算出率による金額もあわせて算出した。

3 原告は昭和四一年四月、公社法に基づき、東京都住宅供給公社として発足したのであるが、その前身である財団法人東京都住宅公社時代以来一〇年あるいは二〇年余を経過しているにもかかわらず公社住宅の家賃を全く値上げしたことがない事実は、原告が著しい物価の変動にもかかわらず、経理上他の経費を犠牲にしてまでも辛うじて維持管理を継続してきたことによるもので、公社住宅の維持管理費の欠損については、国または東京都からの援助は全く得られない制度上、入居者に対し、公庫法に定める一定制限の範囲内において応分の負担を求めざるを得ない実情である。

4 原告は、オイルショック以後諸物価の高騰と住宅の老朽化等から原告の内部努力だけでは、住宅の維持管理が困難であると判断し、現行の諸法規(公庫法等)に従つて改定家賃を算定し、公庫及び東京都の承認を得て決定したのである。公社住宅については、今後老朽化が進む中で良好な居住環境を維持して行くために、常に住宅の経年変化と修繕需要に対応して計画的に修繕費を留保し、執行を図つて行かねばならず、本件値上げにより増収となる修繕費についても公庫の指導に従い修繕引当金に繰り入れ、経年損耗の激しいもの、居住者の要望の高いもの、更に住宅の維持保全のため計画的に実施するもの等の工事により公社住宅総体についての住宅の維持保全と居住環境の向上に使用するものである。従つて、公庫法規則一一条五項を適用することが必要不可欠であつた。

5 家賃構成要素中の維持管理費の算出を、公庫法規則一一条五項によつたことについて、これを個別団地に限つてみても、次のような必要性がある。

(一) 維持管理費中修繕費は、常に相当額の積立金(いわゆる黒字)が存在することが正常な状態であつて、これが取り崩されて赤字となつていることは、異常な事態である。従つて、修繕費が黒字であるからと言つて必要性がないわけではなく、むしろ赤字であることは必要性の極端な場合でしかない。

(1) 修繕費の算出は、当該住宅の新入居当初から一定の乗率をもつて構成要素とされ負担させることになつているところ、新築当初は修繕費がほとんどかからないのが常識でもあり実情でもあるから、これらの額は修繕引当金として積み立てられることになる。そして、必要の都度この中から支出していくことになるので、結局相当額の積立金を有していることが正常な管理運営に必要であり、これが底をついて赤字になること自体が異常事態である。従つて、相当額の黒字があることを踏まえ、なおかつ将来の維持修繕を行つていくうえで必要な積み足しを行つていかねばならないのである。

(2) 原告の実績においても、昭和二五年度に賃貸住宅の管理を開始して既に三〇年を経過した中において、各住宅の修繕費の推移をみると、一部の例外(市街地の高層住宅)を除き、およそ一二、三年ぐらいまでに過去の積立分を使い切つており、その後は大幅な支出超過となつている。逆に言えば、当初の五年ないし七年間は蓄積の時代であり、その後の五年間はこれを消耗する時代であつて、その後は全くの赤字運営となる。以上は、推定再建築費を全く採用しなかつた結果でもある。従つて、現時点で黒字であつても、将来の必要性に備えて積み立てる額を順次増大して行かねばならないのである。

(3) しかも、積み立てられた額は、今日のインフレ時代においては、次第に目減りしていく。従つて、単に建築当初に定められた率ではなく、目減り分に相当する額をかさ上げする必要もある。

(二) 住宅は、耐用期間中居住者に賃貸され使用されることを前提としている。その修繕費は、古い住宅ほど多額を要する。即ち、その時々に必要な修繕費を、その時の居住者が負担するとすれば、新しい住宅の居住者は修繕費を負担しないで済む代りに、後の居住者は多額の負担をしなければならない。しかし、それは、後の居住者の使用だけによる修繕ではなく、当初の居住者の使用による損耗のつけが、後の居住者に回つて来た結果も含まれている。このように、時間的前後を考えてみると、修繕費は必要な時の居住者にだけ負担させるのではなく、当初の居住者からなるべく均等に負担させるのが合理的でもあり公平でもある。因みに、原告における居住期間の平均はおよそ七年間である。当初の家賃構成要素に既に修繕費が含まれていることは、右の考え方を正当化する。そうすれば、現時点で修繕費がある程度積み立てられている(いわゆる黒字である。)ことだけで必要性を判断すべきではなく、住宅の耐用年数を通してみて将来の維持修繕をも含めて総体的にその必要性を判断しなければならない。そうすると、前に指摘したとおり、今のままでは一二、三年間でそれまでの修繕費の積立分を全額取り崩し、以後は赤字に転落する実績を考慮し、さらにインフレによる目減り分を加味すると、本件値上げの時点において既に推定再建築費を適用する必要があるものと言わねばならない。

(三) 住宅の維持修繕は、大きく分けて、耐用期間中に計画的に実施する計画修繕、日常偶発的に発生する小規模の工事や、生活に重大な支障を及ぼすために緊急に行うことを要する一般修繕ないし経常修繕、その他の修繕がある。この中で、計画修繕については、入居後おおよそ一〇年、一五年、二〇年、二五年を経過した後に実施するものであり、一〇年、二〇年後のためにそれに相当する費用を積み立てておかねばならない。また、台風、豪雨等の災害により住宅に損害が発生した場合は、特別な修繕として緊急に復旧工事を行わなければならないが、その費用は何時いくら必要であるか予見不能であり、健全な管理運営のためにはこれまた相当額の積立てが必要である。

(四) 以上のとおり、修繕費は、個別団地に限つて考えても、常に相当額の積立てを必要とするのである。そして、現在の原告の運営の実績からみると、一〇数年後の赤字転落を防止し、常に良好な住宅機能を維持しながら、かつ負担の公平化を図るうえからみて、本件四団地はいずれも推定再建築費を採用する必要があつたのである。

(五) 本件四団地のうち江古田住宅(約一七年経過)は、修繕費は赤字となつており、異常事態である。青葉町第二住宅(約一二年経過)及び昌平橋住宅(約一〇年経過)は、多少の黒字を残しているものの、この程度の金額では例えば外壁塗装を行つただけで使い尽くされる程度の金額に過ぎず、その他の修繕を行えば異常事態である赤字に転落することは間違いない。西台住宅(約三年経過)については、相当額の黒字があるものの、今のままでは一〇年以内にこの積立ても底をつくことは、他の団地の実績に照らして明らかである。

七  管理事務費について

1 被告らは、昭和四一年度から昭和五〇年度のうち、管理事務費の伸びは、8.25倍の異常な膨張であると述べているが、これは物件費及び人件費の年々の上昇、高層住宅の増加による管理委託費の増大、事務所移転による運営費の増大等に起因するものである。

2(一) 前記のとおり事業を経営して行く上でかかる諸経費については、一定の方式により各事業部門ごとに経理しているもので、被告らの主張するように本来負担すべき他部門の経費を管理部門に負担させている事実はない。

(二) また、建設事業部門において住宅建設戸数が落ち込み、その結果赤字が生じたとしても決算上それは損失として計上されるものであり、土地売却益等の事業外収益により補填されるものである。従つて、建設部門の諸経費を賃貸住宅の管理事務費に負担させ意図的に大幅な赤字を作りだすということはあり得ないし、また、現に行つたことはない。

(三) 原告が昭和五四年度決算において、特定引当金(被告らの言う特別修繕引当金)により補填した事実はあるが、これら特定引当金は、過去に原告の土地売却益等の事業外収益から積み立てられたものであり、被告らの家賃による収入から積み立てられたものではない。

八  公庫法三五条二項について

1 家賃額について、公庫法三五条二項に規定する「主務大臣が定める額」とは、公庫法規則一一条一項において「同項第一号から第六号までに掲げる額を合計した額とする。」旨規定されており、その二号において、維持管理費は「公庫の貸付金に係る住宅の建設費に千分の1.4を乗じた額」とされている。即ち、維持管理費は右二号の額と定められているわけである。ところが、一方、右二号の額については、同条五項において「推定再建築費に千分の1.4を乗じて得た額を第一項第二号に掲げる額とすることができる。」と規定されている。従つて、結局同条五項は、推定再建築費を適用するかどうかの選択を認めた規定に過ぎず、千分の1.4をそれ以下にする余地はない。

2 問題は右のようにして算出された「主務大臣が定める額」につき、公庫法三五条二項が「主務大臣が定める額をこえて、当該貸付金に係る住宅の家賃の額を契約し、又は受領することができない。」旨定めているところから、逆に「主務大臣が定める額」を下回る額を決めることが可能かどうかという点にある。この点については、条文の法解釈からいえば可能であるが、公庫法規則一一条一項及び五項によつて算出された家賃額は、原価もしくは原価的なもので、利潤を全く含んでいないから、このような原価的な計算を基礎とする公庫法規則一一条一項及び五項の規定からすれば、家賃額は固定され変動の余地はないというべきである。もし、これを下回わる場合は、最早独立採算制をとり得ない原価割れの額であり、到底維持することはできない。

3 公庫法は、「主務大臣が定める額」を上回る額を定めることを禁止しているだけであつて、それ以下に定めるべきであることを命じているものではない。公庫法規則は、右「主務大臣が定める額」の算定方法を定めているのであつて、それに従つて算定された家賃額は、法に触れるものではない。公庫法規則においては、家賃額の算定方式は一定しており、家賃額の変動ということは、規則の適用によりなし得るものではなく、その意味で公庫法規則一一条一項及び五項に基づき算定された家賃額は固定的である。

九1  被告らは、原告が公社住宅の維持管理を長年に亘つて放置してきたと主張しているが、別表一〇の1ないし4のとおり相当部分の修繕を実行している。また、維持管理費の総体的赤字を是正するため本件値上げ対象住宅の九九パーセント余の賃借人の応諾を得ている中において、被告らだけがこれに応じないことは、公社住宅について被告らが言う「良好な住環境」を阻害こそすれ建設的発展とは程遠い考え方である。

2  なお、昌平橋住宅及び青葉町第二住宅については、下階に被告ら主張の施設があるが、公社住宅との共用部分の諸費用及び同時施工の修繕費については、延面積接分等一定の負担率によつて配分されているので問題はない。

(原告の反論に対する認否)

すべて争う。

第三 証拠〈省略〉

理由

第一  賃貸借契約と本件値上げ

一請求原因一(原告の地位)の事実のうち、原告が東京都内における都民の住宅困窮者に対する住宅の賃貸、分譲を主たる業務とする特別法人であることは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、その余の事実が認められる。

二請求原因二(賃貸借契約)、同三(家賃増額の意思表示)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

三〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、本件値上げについては、借家法に基づき、公庫法規則一一条の制限内で、同条五項を適用して、家賃額を算定しているが、推定再建築費算出率については、昭和五〇年度の数値を使用している。

2  本件四団地についての、戸数、被告数、事業年度、賃貸開始時期、経年(これについては、後記のように、昭和五一年三月三一日を基準とした別表二八に基づく経年表示によつた。)、昭和五〇年度推定再建築費算出率は、別表一八(本件四団地一覧表)記載のとおりである(推定再建築費算出率については、公庫と原告との間の金銭消費貸借抵当権設定契約証書の作成年度を基準とするものとされているところ、西台住宅については、公庫と原告との右契約証書の作成日が昭和四八年一一月一三日であるため、昭和四八年度を基準とした推定再建築費算出率が適用されることになる。また江古田住宅については、賃貸開始年度の違いにより第一と第二に分けられているが、以後、特に第一、第二と断わらない限り、賃貸開始年度については、第一の昭和三三年度を基準とすることとする。)。

第二  本件値上げの法的根拠について

原告と被告らとの賃貸借契約は私法上の契約であるから、借家法七条が適用されるのであつて、公社法一条が公社の公共的性格を規定していることによつて、右が否定されるものではない。

一本件値上げ当時の公社法及び公社法規則には、公団法規則一〇条や公営住宅法一三条のような賃貸住宅の賃料の増額について明示的に規定した条項は存在していなかつたが、それは、公営住宅法一条が住宅の賃貸をその目的として掲げ、公団法三一条が住宅の賃貸を、分譲等と並列して業務の範囲として掲げているのに対し、公社法二一条が、業務の中心を住宅の積立分譲に置く形で制定されていたためであると考えられる。しかし、公社法二一条三項一号は公社の業務として住宅の賃貸を予定しており、現実に住宅の賃貸を行つている以上、右増額についての規定がないことをもつて、借家法七条の適用や、原告の賃料増額請求権を否定する趣旨であると解することはできない。また、原告の実際の業務の上で、賃貸業務の占める割合が、住宅建設後分譲するまでの過渡的措置としての賃貸等、例外的な場合に限定されるものであることを認めるに足りる証拠はない。

二公社法二四条を受けた公社法規則一六条一項は、公社住宅の家賃の構成要素を列挙しており、右構成要素には利潤が含まれていないものと考えられる限りで、民間の借家とは異なつた面を有することは確かであるが、右各構成要素のうちには、例えば、地代又は地代相当額や公租公課のように、経年により増減が考えられる項目が含まれており、これらの増減については、借家法七条一項も家賃の増減額の事由として予定しているのであるから、公社法規則一六条一項の定めをもつて、借家法の適用が排除されているものと考えることはできない。

第三  本件値上げにおける借家法七条一項の増額事由の有無について

一〈証拠〉によれば、公社住宅の家賃については、原告は、公庫からの貸付金によつて賃貸住宅を建築しているため、公社法二四条、公社法規則一六条一項、公庫法三五条二項、公庫法規則一一条一項、公庫貸付・管理部長通ちよう「賃貸住宅家賃算定基準の運用等について」(昭和四九年一〇月一日住公貸発第三四三号)に基づき、別表一九のとおりの項目及び算出方式で、団地単位の月額家賃額を決定しており(ただし、本件四団地については、同表(ロ)、(ハ)の項目は含まれていない。)、住宅の維持管理費(同表(ホ))中に含まれる修繕費に相当する額(建築費と屋外附帯工事費の千分の1.0)については修繕引当金勘定に、昇降機の維持管理費(同表(ヘ))中に含まれる維持費に相当する額(昇降機設置工事費千分の1.5)については維持引当金勘定に、租税その他の公課(同表(ト)、(チ))のうち当該年度において納付した租税その他の額を差し引いた残額については、固定資産税等納付引当金勘定に、災害損失引当金(同表(リ)の一部)、貸倒れ等損失引当金(同表(ヌ))については、それぞれ各引当金勘定に、それぞれ繰り入れ、これらを引当目的以外の目的のために使用してはならないとされていることが認められる。

二〈証拠〉を総合すれば、本件四団地の本件値上げ時点における家賃算出基礎及び右により算出した団地単位の月額家賃が別表二〇の1ないし4のとおりであること(ただし、住宅の維持管理の額については、公庫法規則一一条一項二号に基づき、また青葉町第二住宅については、公庫貸付金の償還が終了し、東京都貸付金の償還をしているが、他の三団地と同様の方式で、算出した。)、各入居開始時点における団地単位月額賃料との比較は別表二一のとおりであることがそれぞれ認められる。

三公社住宅家賃の構成要素は、計算上、一定乗率に基づき政策的に決められるもの(住宅の維持管理費、昇降機の維持費、貸倒れ等損失引当金)と算定の時点の原価的なもの(右に掲げたもの以外の項目)とに分けられるが、前記二の結果は、右政策的項目についての検討を一応置いたとしても、本件値上げ時点で、右原価的項目については、当初の設定額では賄うことができない状態であることを示すものである。

四〈証拠〉によれば、原告は、公社住宅につき、団地数、戸数が多数にのぼり、また各団地の経年等の事情がそれぞれ異なるため、全住宅を総合的に管理運営するという方式を採用していることが認められるから、家賃構成要素中の原価的項目が、全団地を総体としてみた場合に過不足なく運営できる場合には、個別団地において右原価的項目が不足している状況でも、家賃の増額なしに運営することも可能である場合が考えられる。

五そこで、右原価的項目のうち、大きな割合を占めていると考えられる地代及び公租公課について、全団地の収支を検討するに、〈証拠〉によれば、昭和四八年度以降の地代及び公租公課についての全団地の収支は、別表二二の1、2(賃貸住宅公租公課・地代収支状況)のとおりであり、地代については、昭和四九年度以降、公租公課については全年、収支が赤字であることが認められる。

六以上の点に、後記の維持管理費の収支状況を総合すれば、本件各住宅の家賃について、借家法七条一項にいう「土地若しくは建物に対する租税其の他の負担の増加」という増額事由が認められるものと言うべきである。

第四  公庫法規則一一条五項の解釈と維持管理の必要性について

一被告らは、公庫法規則一一条五項を適用してなされた本件値上げについて、同項にいう「必要性」を欠くものであると主張しているので、この点につき検討するに、同規定は、その文言及び趣旨からして、原告と被告らとの間の法律関係につき規定したものではなく、公庫と、公庫から借入れをしている原告との間の法律関係を規定したものと解するのが相当であり、その意味では、同規定にいう維持管理の必要性という要件は、あくまで、原告が、公庫との関係において、家賃額を変更しようとするときの要件に過ぎず、原告が被告らに対して賃料増額の意思表示をするについての要件ではないと言うべきである。

二しかしながら、従前の維持管理費の収支、今後の維持管理のためにどれだけの費用が必要とされるかという点については、公庫法規則一一条五項だけの問題ではなく、借家法七条一項の増額事由(建物に対する負担の増加)の一つと解することができるのであるから、以下においては、借家法七条一項の増額事由としての維持管理費増額の必要性の有無を検討することとする。

第五  維持管理費増額の必要性の有無について

一  住宅の維持修繕について

1  公社住宅の修繕費の財源について

〈証拠〉によれば、原告は、家賃構成要素中の住宅の修繕費(当該住宅の建築の千分の一)については、全額修繕引当金勘定に繰り入れ、右引当金をもつて住宅の修繕を実施することにしており、右引当金は、引当目的以外の目的で使用しないという会計処理をしていることが認められる。

2  住宅単位に見た必要とされる修繕費とその経年変化について

(一) 〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 昭和三〇年四月、日本建築学会建築経済委員会が作成した「耐火建築物の維持保全に関する研究(学校・病院・事務所・アパートの修繕)」(以下「研究(1)」という。)においては、別表二三の1(アパート標準建物)記載の標準建物について修繕費標準額をモデル計算したところ、別表二三の2、3(アパート修繕費標準額モデル計算結果総括表及びアパート、建物修繕費標準額モデル計算結果)記載のとおり、建物につき完ぺきな修繕をする場合の再建費に対する修繕費乗率は年間100分の4.34であり、その内入居者負担分が100分の1.10、事業主体負担分が100分の3.24(ただし、別表二三の2、3に記された数値を基に計算すると設備に関する再建費に対する修繕費乗率は0.0912、全体の修繕費乗率は0.0433、その内入居者負担分が0.0109となるが、事業主体負担分の修繕費乗率は0.0324であつて、結論に変化はない。)であつて、坪当たりの修繕費経年変化(五年間を一単位としたもの)は、別表二三の4(アパート坪当たり修繕費標準額累計曲線)のとおり、当初の一五年間は、大修繕が行われないため、ほぼ同額で、少々増大していく傾向にある程度であるが、一五年から二〇年目の時期になつて大修繕を行うべきものが続出するため修繕費が大幅に増加し、その後は再び当初に近い程度まで戻り、三五年から四〇年目、五五年から六〇年目に大修繕の山がくる旨の研究結果が発表されている。なお、右研究においては、特殊な災害によつて生ずる大規模破損の修繕及び建物の効用が増大又は変化する工事は修繕に含めないとの前提がとられている。

(2) 右研究を受けて、昭和三一年七月二〇日、日本住宅公団計画部が作成した「公団中層耐火構造アパートの修繕費乗率算出根拠」(以下「研究(2)」という。)においては、前記(1)の乗率による場合には、入居者の家賃負担があまりにも大きくなり過ぎることから、例えば、配電盤につき取替えをせずに解体修理で済ませたり、大修繕の直前に予定されている小修理は我慢する等使用上差し支えない範囲で修繕費をできるだけ節約する方針で再計算を行い、公団が義務として行うべき修繕個所を、①屋根、②外壁、③内壁、④基礎、⑤柱、⑥天井、⑦梁、⑧床(ただし、畳を除く。)、⑨建具(ただし、障子、ふすまその他の木製建具及びガラスを除く。)、⑩階段、⑪電気設備(ただし、各戸の照明器具、スイッチ、コンセント、ヒューズ、ソケットその他小修理に属するものを除く。)、⑫給水設備(ただし、水栓その他小修理に属するものを除く。)、⑬排水設備、⑭衛生器具設備(ただし、浴槽、風呂釜及び煙突類は除く。)、⑮その他の屋内雑設備、⑯屋外附帯設備としたうえで、その修繕費の乗率を年間100分の1.2とした(ただし、右乗率の計算に当たつては屋外附帯設備関係の資料が不十分であるため屋外給排水設備の修繕費しか算入されておらず、実際には100分の1.2よりも幾分大きな値となるものと考えられる。)。そして、戸当たり修繕費月額についてその経年変化が別表二四の1、2(中層耐火構造アパート一戸当たり修繕費の経年変化)記載のとおりとなる旨の研究が発表されている。

(3) 日本住宅公団建築部調査研究課の委託を受けた社団法人日本建築学会経済委員会(主査谷重雄)が昭和四一年一一月二日から昭和四二年四月三〇日までの間に調査研究した「中高層住宅の修繕費率の研究」(以下「研究(3)」という。)においては、原告の前身である東京都住宅公社の住宅について、昭和三五年度と昭和三八年度における修繕費支出の経年変化を調査しているが、その結果は別表二五の1、2(建築年度別・経年別実質修繕費)及び3(実質修繕費の経年変化)のとおりである(昭和三五年価格を使用したものは、工事種目別の単価につき昭和三五年価格に換算した実質価格を求めた上で合算する方式をとり、昭和三八年価格を使用したものは、一定年度に行われた修繕費支出を各経年の団地ごとに求め、これを当該団地の床面積合計で除する方式をとつた。)。右によれば、修繕費支出は経年九年辺りから急激な上昇に転ずることが認められるが、右上昇傾向がどこまで続くのか、修繕費支出の周期性については根拠資料が不足しているため不明であるという結論が出されている。

(4) 昭和五六年二月、財団法人日本住宅総合センターの委託を受けて財団法人日本建築センターが調査研究を実施した「中高層共同住宅管理問題に関する調査研究―設計管理技術及び住宅性能表示方法―」(以下「研究(4)」という。)においては、地方住宅供給公社が管理する住宅のうち別表二六(調査対象団地)記載の団地について調査(約半数については昭和五二年度から昭和五四年度までの三年間分の修繕記録、他のものは右三年間を含むより長い期間の修繕記録によつた。)した結果、各団地ごとの修繕費の積立てと支出をみると、二〇年前後を経年した団地はすべて支出が収入を上回つていること、一戸当たりの年平均の修繕費は七万二三〇〇円であるから、現在の維持管理水準で、かつ、建築費上昇分を修理費徴収分に繰り入れ評価できるならば、年間建築費の1.2パーセントで維持保全を行うことは困難ではないと言える旨の研究結果が発表されている。

(5) 昭和五六年九月、日本建築学会学術講演として、吉阪秀三、古川修、須田松次郎、東樋口護が発表した「公社住宅の修繕実態、中高層共同住宅の修繕に関する研究2」(以下「研究(5)」という。)においては、前記(4)の調査対象団地についての調査に基づき、修繕費の経年推移につき、別表二七(公社住宅の戸当たり修繕費の経年推移)のとおりであつて、①二九年間で一戸当たり平均一八四万九〇六六円(一住戸五〇平方メートルとして基準化すると二一九万二八七一円となる。以下同じ。)、年平均一戸当たり六万三七六一円(七万五六一六円)の修繕費が支出されており、②修繕費支出の推移は、五年目までが通年平均の一〇分の一程度、六年ないし一〇年目がその約四倍、一一年ないし一五年目が、更にその約二倍に増加し、一六年ないし二〇年目では、通年平均を上回るが、二一年ないし二五年目では、一一年ないし一五年目の水準に一旦減少し、二五年ないし二九年目では再び通年平均の3.3倍にまで増大している、③修繕工事の内訳別に見ると五年目までは小口修繕の占める割合が72.9パーセントと極めて高いが、以後、右項目の支出額は比較的安定しているものの割合は漸次低下し、これに対し、建築にかかわる修繕は、当初11.7パーセントであつた割合が漸増し、二六年ないし二九年目では79.9パーセントに達している旨の研究結果が発表されている(なお、別表二七の二六年ないし二九年の各項目の数値を合計すると総計は一八六、〇三九となり、仮に右総計が正しいとすれば、通年平均の総計は六三、七六〇となり、また二九年間における一戸当たりの平均修繕費は合計一八四万九〇四六円となる。)。

(二) 右各研究結果に照らせば、以下において、住宅単位で見た必要とされる修繕費とその経年変化を検討するにあたつての一つのモデルとして、次の理由により研究(2)の結果を採用するのが妥当と考えられる。

(1) 将来どの時期に、どれだけの修繕費が必要とされるかという問題は、将来の予測にかかわるものであるから、過去における実績を踏まえることは必要であるが、右実績がどのような具体的状況下で形成されたものかという点が明確になり、更に将来どのような具体的状況に推移していくのかという点が明らかにならなければ、右実績だけで将来を予測することはモデルとして適切とは言えないものと考えられる。

(2) 多数の異なる具体的状況下にある団地の中から、その実績だけで具体的に将来の予測をすることは困難であると考えられるので、ある程度、標準化、一般化された状況を前提として、一つのモデルを策定し、それに基づいて具体的な検討を加えるという方法が望ましいものと考えられるところ、研究(1)の方法は、まさに右方法と同じであると言うことができる。

(3) 研究(2)は、研究(1)の手法を前提としつつ、研究(1)の結論としての乗率が賃借人の家賃負担能力に比して高すぎるという点から政策的に100分の1.2という乗率を算出したもので、右乗率は公庫法規則で定められている修繕費乗率と一致している。

(4) 研究(3)ないし(5)は、実際のデータに基づく解析であるが、右データの量及び評価方法につき一定の限界があり、右調査結果を前提に将来を予測し得るだけのものとは言えない。

(5) 研究(2)は、中層耐火構造アパートを標準としたものであるから、右研究結果が、直ちに高層耐火構造アパートにも妥当すると言うことはできないが、高層耐火構造アパートについて、この点についてなされた研究(2)に匹敵するだけの研究結果が出されていないこと及び公庫法規則では、中層、高層を区別せず乗率を定めていることから、一応高層耐火構造アパートについても研究(2)の結果を当てはめてみることとする。

(三) 前掲各証拠及び研究(2)の結果に照らして検討すれば、必要とされる修繕費とその経年変化については、次のとおりとなる。

(1) 建築費の100分の1.2(年額)の修繕費を一〇〇とした場合の、一戸当たりの建物にとつて必要とされる修繕費(年額)の経年変化は、別表二八のとおりである(以下「本件モデル」という。)。

(2) 右修繕費の経年変化については、研究(2)の結果が出された経緯から考えて、建物を居住のために維持していくのに最低限各期間において実施すべき修繕費を示したものと考えるべきである。この点について、被告原田一夫は、右経年変化は、修繕費の支出可能月額を示したものである旨供述し、乙第八一号証にも右に沿う記載がなされているが、これらは採用することはできない。

(3) また、右経年変化は、七〇年後までを推測するという手法をとつているが、その間の経済変動による修繕費額の変化は考慮に入れられていないものである。

(4) 右経年変化によれば、仮に経済変動がないと仮定しても、各個別団地ごとに見て、当初の五年間で積み立てられた修繕費は、一八年目までで取り崩され、一九年目からは収支がマイナスに転じ、次に収支が合うのは、耐用年数である七〇年を経過した時点であることが認められる。

(5) 右経年変化に照らせば、経済変動を考えるまでもなく、当該団地の経年だけでもつて、一九年目からは、当該団地の家賃から得られる修繕費だけでは、最低限の修繕さえ実施できないことになつてしまうことになるので、右最低限の修繕を実施するためには、未だ修繕費の積立てが残つている他の経年の浅い団地の修繕費を流用せざるを得ないということになる。

(6) 公社住宅の入居年度別の戸数とその経年については別表二九(入居年度別公社住宅戸数)記載のとおり(経年の基準日は昭和五一年三月三一日とする。以下同じ。)であり、既に一九年以上経過した住宅が六七三〇戸存在していることが認められるのであるから、前記(5)のような方式で、全公社住宅について最低限の修繕を実施していくためには、その前提として、少なくとも右全公社住宅についての修繕費の収支がプラスであることが必要とされるものと言うべきである。

(7) 右の結論は、個々の団地ごとに見た修繕費の経年による必然的変化に起因するものであるから、修繕費の収支につき、原告が実施している総体運営の総体管理の立場に立とうが、被告らが主張している個別管理の立場に立とうが、何ら異なるところはないと言うべきである。

3  修繕の概念について

(一) 〈証拠〉によれば、次のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 建築学上の修繕概念について

(ア) 建築学上、修繕については、「建築物などの耐久的財貨の損傷部分に工作を加え、その原形を回復するとともに、損傷による支障を排除して当初の使用価値を維持すること」と定義され、建物維持の手段の一つ(今一つは建物管理)として位置付けられ、修繕の結果、使用価値が当初より増大するときは、その増大部分に対する費用は改良費として、また、その使用価値の内容が当初のものと変わつてしまうときは、その変化部分に対する費用は模様替え費として区別すべきものであるが、この区別は実際上困難なので、これらを一括して修繕費と呼ぶこともあるとされている。

(イ) 右のような修繕及び修繕費の定義を受けて、各研究においても、改良、模様替え、そして環境整備等に関するものは、修繕に含めないという基本的前提がとられている。

(2) 原告における修繕及び修繕費の運用について

(ア) 研究(3)においては、原告を含む地方住宅供給公社の維持管理費について研究した結果は、別表三〇(維持管理費の分析)のとおりであり、特別の改良費については、修繕費を財源としているのに対し、通常の改良費については、敷金の利息を財源としていることが認められるが、このような支出をしているのは、管理戸数が多く、修繕費が不足勝ちでその使用が不可能であり、居住者からの要望の中で特に環境上団地にとつて必要性を認めざるを得ないということから行われていたものと認められる。

(イ) 原告においては、本件値上げ当時、修繕実施に当たつて、次のような区分を設けていた。

① 経費的支出

材料費(シリンダー)、巡回委託料、保守料(昇降機保守料、技術員手当等)、管理委託費等をいう。

② 小口修繕

日常的修繕(主として一件当たり五万円以下で伝票処理をする修繕)、突発的に生じた修繕、減価償却費等振替及び雑修繕をいう。

③ 計画修繕

単年度予算で決めた修繕及び長期計画の一環として毎年度予算に計上した工事のうち当該年度に該当する修繕をいう。

④ 空家修繕

空家住宅の原状回復のための修繕費をいう。

(ウ) 原告は、本件値上げ後、昭和五三年一一月に、それまで原告において行われてきた営繕工事の実施規準を基にして、東京都住宅供給公社営繕工事実施規準を策定したが、そこでは、修繕工事について、次のとおりの区分、定義をしている。

① 計画修繕

住宅及び付帯施設並びに共同施設について、修繕、改良、新設及び増設工事を行うに当たり、年次計画を策定し、計画的に実施する工事をいうが、その具体的項目、内容等は、別表三一(計画修繕項目一覧表)のとおりである。

② 一般修繕

計画修繕を行うまでに時間的余裕のない場合に行う修繕、部分修繕及び生活に重大な支障を及ぼすものについて行う緊急修繕(これらは、前記①に準じて工事を実施する。)並びに空家補修及び団地内の遺留物、不用設置物の処理等の工事のことをいう。

③ 特別修繕

台風、豪雨等の災害により、住宅及び付帯設備並びに共同施設に損害があつた場合に行う緊急復旧工事をいう。

(3) 原告における修繕費等に関する会計処理について

原告の勘定科目分類基準上、修繕費等についての勘定科目については次のとおり定められているが、右は、地方住宅供給公社財務諸表標準様式及び勘定科目分類基準と同じである。

(ア) 引当金の欄に、修繕引当金として、賃貸資産、長期分譲資産又はその他の施設の修繕のため引き当てられた額を記載する。

(イ) 特定引当金の欄に

① 特別修繕引当金として、長期分譲資産、賃貸資産及び右形固定資産に係る工事請負業者に転嫁することのできない瑕疵補修並びに賃貸資産の住棟内施設の取替え又は改良に要する支出に充てるため引き当てられた額を記載する。

② 団地整備引当金として、長期分譲資産及び賃貸資産のうち、公社が管理する団地内施設の新増設、改良及び維持管理に要する支出に充てるため引き当てられた額を記載する。

③ 災害復旧引当金として、賃貸資産及び後年度用地(完成宅地)の災害による損害を復旧する費用として引き当てられた額(地方住宅供給公社財務諸表標準様式及び勘定科目分類基準では、分譲資産及び賃貸資産のうち、公社が管理する団地及び公社が建設して譲渡した団地のうち、その引渡し後一定の期間を越えないものの災害による損害を復旧する費用として引き当てられた額)を記載する。

(二) 右事実によれば、原告においては、建築学上修繕費には含まれないとされている改良費、模様替え費、また会計処理上、特別修繕引当金、団地整備引当金、災害復旧引当金から支出できる種類の工事についても、修繕費として取り扱つてきたものと推認することができる。そこで、以下において、原告の右のような取扱いの是非、修繕費に含めてもよい工事の内容につき検討することとする。

(三) 修繕と改良、模様替えとの区別について

(1) 建築学上、修繕は、改良、模様替えとは区別されて考えられているが、前記のとおり、両者が一体となつた工事ではその区別が実際上困難であることから、一括して修繕費と呼ぶこともあるとされていることに照らせば、建築学上の原形修復工事としての修繕概念は、極めて抽象的なものであると言わざるを得ない。

(2) また、修繕を当該建物の原形修復工事に限定して考える建築学上の考え方は、建築物そのものの側に視点を置いたものであつて、当該建築物が使用の客体とされており、それを十分に使用し得るために修繕が行われるという側面を無視したものと言うことができる。

(3) 時代の変化に応じて、生活水準、生活形態、居住に対する考え方が変化することを考えれば、修繕を原形修復に限定した場合には、構築物としての原形には戻つても、各時代において相対的に必要と考えられている居住水準には達しないことが多いということは明らかである。

(4) 従つて、構築物としての絶対的機能を原形より増加させるような工事であつても、それを住居として見た場合、各時代における居住水準に照らし、相対的に機能を修復させるものと言い得るものは、本件において修繕に含まれるものとして扱うべきであると考えるのが相当である。

(四) 会計処理上の区別について

(1) 特別修繕引当金、団地整備引当金、災害復旧引当金は、いずれも特定引当金、即ち利益留保性の引当金であるから、引当目的以外には使用することができないが、右引当目的に該当する工事は、必ず当該引当金から支出しなければならないというものではなく、右工事が、前記修繕の概念に含まれるものであれば、負債性引当金である修繕引当金から支出しても良いものと解すべきである。

(2) この三つの特定引当金項目のうち、修繕引当金項目としても良いかどうかが問題となるのは、団地整備引当金項目である。即ち、団地内施設の新増設、改良及び維持に要する費用を、住宅の修繕費と言うことができるかどうかという点が問題となる。しかし団地内施設も個々の住居と一体となつて、居住者にとつて一つの住環境を形成しているものであるから、「住宅」に含まれるものと考えられ、従つて、団地整備引当金項目も修繕の概念に含まれるものと言うべきである。

(3) 特別修繕引当金及び災害復旧引当金項目の工事については、前記修繕の概念に含まれるものと言うことができる。

(4) 〈証拠〉によれば、原告においては、その会計規程において、資産の記帳価額について、特定引当金の取崩しをもつて設置する付属建物もしくは構築物の価額は備忘価額によるものとする旨定めていることが認められるが、右は単に、その資産が特定引当金の代替物として利益留保の性質を有し、その取得のために支払われた金額が収益に対応する費用ではないことから、右資産の取得価額をそのまま計上することは妥当ではないとの判断に立つものと考えられ、また前掲証拠によれば、原告の会計規定では、取崩額を当該事業年度の損益計算書に脚注すると定められていることが認められるのであるから、前記のように資産の記帳価額についての備忘価額による計上の定めがあるからといつて、原告の会計規定上、特定引当金から支出され得る修繕費の増加をもつて本件値上げの理由とすることはできないとは言えない。

4  昭和五一年三月三一日現在の修繕費収支について

(一) 本件値上げは、昭和五一年一二月一日から賃料を増額するというものであるが、右時点における修繕費の収支を求めることは困難であるので、以下、昭和五一年三月三一日(昭和五〇年度末)を基準に検討することとする。

(二) 本件モデルに基づく修繕費収支状況について

本件モデルに基づき、経年ごとに修繕費収支と必要とされる修繕費との差を別表三二(本件四団地修繕費収支モデル)の数値の差で表わし(経年Aでは、一年間につき100−43=57

経年Bでは、同じく100−122=−22

経年Cでは、100−107=−7

経年Dでは、同じく100−146=−46

経年Eでは、同じく100−158=−58となる。)、当該住宅の経年に応じて、右の数値を積算することによつて(以下「戸当たりポイント」という。)、昭和五一年三月三一日当時の収支がプラスであるかマイナスであるかを判断すると次のとおりとなる。

(1) 本件四団地について、戸当たりポイントは別表三二のとおりであり、いずれも、本件モデルに基づけば、昭和五一年三月三一日の時点での修繕費の収支はプラスとなつているはずであることが認められる。

(2) 公社住宅全体についてみると、別表三三(公社住宅全団地修繕収支モデル)記載のとおり、本件モデルに基づけば昭和五一年三月三一日の時点での修繕費の収支はプラスになつているはずであることが認められる。

(三) 現実の収支について

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 公社住宅全体の収支

原告が設立されてから以降の修繕引当金の期末残高、特定引当金からの修繕に関する支出高、同じく東京都の補助金、貸付金からの支出高の推移は別表三四(公社住宅全団地修繕費収支の推移)のとおりであり、東京都貸付金については、公庫貸付金償還後、家賃の構成要素となることを考えて、右を財源とする修繕については、修繕費に含めるべきではないとしても、特定引当金からの支出額を修繕引当金をもつて支出したとすると、昭和五〇年度末において、修繕引当金は、三億二四二〇万七〇〇〇円のマイナスとなつてしまう。(なお、東京都の補助金については、貸付金と異なり東京都に対する返済は必要ではないので、住民の家賃負担には含まれないものであるが、別表三四記載の東京都補助金、貸付金からの支出額のうち、補助金と貸付金とを具体的に区別し得るだけの証拠が存在しないため、補助金も貸付金とともに、検討の対象から除外することとした。)

(2) 本件四団地の収支

本件四団地の修繕費の収支及び修繕の主な内容は、別表三五の1ないし4のとおりであり(右修繕の中には特定引当金控除項目の工事による支出も含まれているが、その内容は、別表三六(特定引当金控除項目)記載のとおりである。また、空家補修費については、入居者が住居を退去する際の補修に要する額を一括して修繕引当金から支出し、その後、退去者負担分が支払われれば、それを修繕引当金に繰り入れるという操作がなされているため、支出として計上されている空家補修費のうち六割をもつて、修繕費支出と認めることとした。)、江古田住宅を除く三団地はいずれも収支がプラスである。そして、これを本件モデルと対比すると別表三七(本件四団地修繕費経年変化)のとおりである。(なお、同表の数値は、別表三五の1ないし4記載の収支額に基づき、各経年期間の支出総額の右期間内収入総額に対する割合(百分率)として求めたものである。江古田住宅については、昭和三三年に賃貸が開始されているので、昭和三三、三四年には各二四二万一四二〇円の収入があり、支出はないものとして計算した。)

(四) 検討

(1) 公社住宅全体の修繕費収支モデルがプラスとなつていることは、修繕費の経年変化だけでは、経年により個別に赤字となる団地についても、総体で十分モデルどおりの修繕を実施し得る状態であるはずであることを示している。

(2) 現実の公社住宅全体の修繕費の収支がマイナスになつているということは、右モデルの場合と比較して検討すれば、仮に本件モデルで予定されている程度の修繕が施されていたとした場合には、右マイナスは、インフレ等の物価変動に起因するものと考えることができる。そして、その場合、既に修繕費がマイナスとなつている団地については、本件モデルが予定しているだけの修繕を実施し得ない状態であることを示している。

(3) そこで、以下において、原告が実施してきた修繕の実態について検討することにする。

5  原告において実施してきた修繕について

(一) 〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(1) 昭和四六年度から昭和五〇年度までの間に、原告が公社住宅全体について支出した修繕費(ただし、空家補修費は除く。)の内訳及び推移は、別表三八(修繕費支出の推移)のとおりであり、それによれば、次のことが認められる。

(ア) 修繕費支出は、昭和四八年度以降飛躍的に増大したが、それは、計画修繕費の支出の増大に起因しているものと考えられる。

(イ) 計画修繕は、修繕費支出のうち最も大きな割合を占めているが、昭和四八年度以降の増大により、全体の八割以上を占めるに至つている。

(2) 原告においては、予算を計上するにつき、一定の修繕費収入のもとで、常にある程度の修繕引当金が積み立てられている状態であることが、その負債性引当金としての性質から望ましいものと判断し、また、当該会計年度内に必要とされる小口、一般修繕に対処し得るように、計画修繕の予算を計上するため、おのずと、当該年度において実施が可能になる計画修繕は限定され、すべての団地につき、計画どおりに修繕を実施することは不可能な状態であつた。

(3) 公社住宅について全体的に見ると、計画修繕の実施はその「計画」よりも遅れ気味であり、研究(5)においては、「計画修繕は修繕実態上ほぼ崩壊し、事後修繕中心になつている。修繕周期は予算上の根拠であり、修繕の一つの目安程度の意味しかない。」と評されている。

(4) また、本件四団地について見ても、主たる計画修繕項目の周期が訪ずれていない昭和四七年度入居の西台住宅を除き、いずれも計画修繕が、遅れている。

(二) 右事実及び前記事実に照らして検討すると次のとおり認められる。

(1) 原告が、本件値上げまでに実施してきた修繕は、本件モデルが予定している最低限必要な修繕のレベルにまで達していないものである。

(2) 昭和四八年度以降の計画修繕の増大及びそれに伴う修繕費支出全体の増大は、物価の変動もさることながら、昭和四八年度において、相当多額の東京都の補助金、貸付金を得られたことを契機として、本来既に実施済みであるべき計画修繕の遅れた分についてその遅れを取り戻すべく工事を実施したためであると推認することができる。

(3) 公社住宅全体についての修繕費の収支がマイナスであるのに対し、本件四団地のうち江古田住宅を除く三団地の修繕費収支がプラスであり、本件モデルと比較しても昌平橋住宅、青葉町第二住宅ではその支出レベルにまで達していないという状況は、右各団地について、計画修繕が予定どおり実施されていないためであるものと推認することができる。

(4) 計画修繕の実施が遅れていることは、住宅を良好な状態に維持管理すべき義務を負つている原告の怠慢であるという側面を否定することはできないが、その原因としては、前記のような原告の予算計上方針の外に、年月の経過及び公社住宅の戸数の増加に伴い、多くの修繕を必要とする住宅が増加してきたにもかかわらず、修繕費の財源である家賃は賃貸当初のまま据え置かれてきたことも挙げられる。

6  空家補修費について

〈証拠〉によれば、昭和四六年度から昭和五〇年度までの空家件数及び空家補修費全体(退去者負担分をも含んだ額)の推移は、別表三九(空家補修費の推移)のとおりであり、空家の発生率は横ばいもしくは低下傾向にあるが、修繕費は増加傾向にあることが認められる。

7  まとめ

以上の事実に前掲各証拠を総合すれば、次のとおり認められる。

(一) 以上のように、本件モデルによれば、公社住宅全体の修繕費の収支がプラスであるはずであるにもかかわらず、本件モデルが予定している最低限の修繕すら実施できていないのに、現実には修繕費の収支がマイナスとなつていることは、ひとえに本件モデルが予定していなかつた要素であるところの物価変動(インフレ)によるものと考えられる。

(二) 確かに、右インフレと相まつて、必要な修繕を適時に実施しなかつたために、修繕を要する程度がより大きくなつたり、あるいは、後に右修繕を実施するに当たつて、より高い費用を必要としたという側面は否定できないものの、右のような修繕の遅れについて、それが原告の怠慢だけに起因するものと言うことはできない。賃貸開始以来本件値上げまでの間、インフレ等による物価の変動にもかかわらず賃料の値上げをしないで、限られた修繕費予算をもつて、公社住宅全体について変化する居住に対する一般的要望等をも配慮しつつ、できるだけ平均的に維持しなければならなかつたということも、個別的に見れば修繕が遅れがちであつたことの原因となつているものと考えられる。

(三) そして、前記修繕費の経年変化を考えると、昭和五一年三月三一日の時点で、原告としては、公社住宅全団地について本件モデルが予定している程度の修繕を実施するためには、個々の団地ごとの修繕費収支がプラスであるかマイナスであるかといつたことではなく、理論上、少なくとも公社住宅全体の収支がプラスであることが必要であるのであるから、現実の収支が前記のとおりである以上、たとえ、個々の団地を見れば、収支がプラスであるものもあつたとしても、それでは、最低限の修繕を実施し得ないものと言うべきである。

(四) 全体収支の動きとしては、昭和四八年度から、大幅に支出額が増大しているが、その原因としては、オイルショックによる物価の高騰もさることながら、昭和四七年度から東京都補助金、貸付金を修繕費として使用するについて、それを機会に計画修繕の遅れを取り戻すべく、工事を実施したことに起因するものと考えられるのであつて、時期的に本件値上げの直前ではあるが、単に本件値上げをするために不必要な工事を数多く実施した「駆け込み支出」とまでは言うことはできないものと考えられる。そして、右の修繕の後においても、必ずしも十分な状態になつたとは言い得ないのであつて、右遅れを取り戻すために必要な費用及び空家発生率が横ばいであるにもかかわらず増加傾向にある空家補修費の動向を併せ考えれば、現状のままで、全体収支が好転するものとは考えられない。

(五) 更に、個々的に見て修繕費がプラスである団地についても、それが必要とされる修繕を実施した後の数値であるならばともかく、最低限の修繕すら完全には行われていないことによる、いわば未払勘定を含んだプラスであるので、単にプラスであると言うだけでは、今後とも右修繕費で十分維持が可能であるということにはならないものと言うべきである。

(六) なお、被告らは、原告による過去の修繕実績に基づいて、将来の必要性を判断すべきであると主張しているが、原告の過去の修繕実績(特に計画修繕実績)は決して十分と言い得るものではないのであつて、原告が今後も、従前どおり不十分な修繕を続けていけば足りるというなら格別、それでは十分でなく、更に遅れを取り戻し、良好な状態に維持していく必要があることを考えれば、前記被告らの主張は、本件のような場合には妥当しないものと言うべきである。

二管理事務費について

1  管理事務費の収支について

〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告における組織及び所属部別役職員数の推移は、別表二のとおりであるが、右役職員が、相互に連携して、直接、間接に公社住宅の管理運営に当たつており、公社住宅についての経費としては具体的に特定することができない面もあるため、原告は、その決算における経費配賦につき、一応別表四のとおり行つている。

(二) 右の方式で得られた昭和四一年度から昭和五〇年度までの公社住宅管理事務費の収支及びその内訳は、別表五のとおりであり、昭和四二年度以降赤字が続いている。

(三) 個別の団地の管理事務費については、右公社住宅全体の管理事務費に、当該団地の年間管理延月数の賃貸住宅の総戸数の年間管理延月数に占める割合(配賦率)を乗ずることによつて計算上経費の割り振りをする形で求めると、本件四団地についての昭和四一年度から昭和五〇年度までの毎年の配賦率は、別表九の1、2のとおり(ただし、昭和五〇年度の江古田住宅の配賦率は0.7754、同じく青葉町第二住宅の配賦率は0.1578である。)であつて、右配賦率に基づき算出した管理事務費の収支は別表四〇(本件四団地管理事務費収支)のとおりである。

(四) 以上のような配賦率を用いた方法は、決算等の会計処理の方法とはなり得ても、実際の管理事務費の具体的収支を示すものではない。しかし、管理事務費支出額及び収支の概略的な動向は右により推認することができるものと言うべきである。

(五) なお、被告らは、公社住宅の戸数は毎年増加しているにもかかわらず、昭和四三年度、同四四年度の公社住宅管理事務費収入が昭和四二年度のそれよりも少ないのは不自然である旨主張するが、前記のとおり、昭和四六年度から昭和五〇年度までは、毎年度三〇〇〇件を超える空家が発生していることに照らせば、昭和四二年度ないし昭和四五年度においても相当数の空家が発生したものと推認できるし、新たに管理を開始した団地が当該年度中に全戸入居するとは限らないことを考えれば、必ずしも不自然であるとは言い切れない。

2  人件費支出について

(一) 〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告職員の給与については、「財政支出団体職員の人事及び給与に関する基準」によつて、原則として東京都の職員の給与に準ずるものと定められている。

(2) 昭和五四年一〇月、原告がその職員に対して、東京都の職員を上回る賞与を与えていた(昭和五二年度は東京都職員の賞与が4.97か月プラス二万六二〇〇円だつたのに対し、原告職員は8.53か月プラス六万一〇〇〇円、昭和五三年度は、東京都職員の賞与が4.9か月分であつたのに対し、原告職員は7.5か月プラス三万四〇〇〇円)ことが、問題とされたが、右のように賞与額が高額となつたのは、原告の前身である宅地開発公社が職員に高給を支給していたことの名残によるものである。

(二) 右の事実に照らせば、原告においては、昭和四一年の発足以来、少なくとも賞与に関する限り、前記基準の定めにもかかわらず、東京都の職員を上回るものを支出していたと推認することができるのであるから、その分を考慮して、賃貸住宅管理事務費収支を次の要領で修正すると別表四一(修正管理事務費収支)のとおりとなる。

(1) 原告職員が得ている賞与を年間八か月分、東京都職員が得ている賞与を年間4.9か月分として考える。

(2) 修正の対象は、慎重を期して、原告職員に対する給与分だけではなく、直接経費、部門共通費、一般管理費に含まれている人件費分全部と退職給与引当金繰入額の合計額とする。

(3) 修正人件費支出は、次の計算式によつて求める。

(三) 右によれば、原告の人件費支出を修正した上で検討したとしても、全体的にみて、管理事務費が赤字であり、更に右赤字が拡大していく傾向にあることが認められる。

三まとめ

以上において検討してきた維持修繕費、管理事務費の収支及びその推移、今後の傾向に照らして検討すれば、本件四団地について、一般的に維持管理費を増額する必要性が存するものと言うことができる。

第六  増額の必要性が認められる場合の家賃構成要素中の住宅の維持管理費の額の決定について

一推定再建築費の合理性について

1  〈証拠〉によれば、次の事実が認められる

(一) 推定再建築費とは、既存の建物を評価するとき、これと同一のものを評価時点で新築するものと仮定して算出した建築工事費のことをいい、当該建物の建築費に、推定再建築費算出率を乗じて得られるものである。

(二) 推定再建築費は、公営住宅法施行規則六条において、家賃変更の場合の修繕費及び管理事務費の算出根拠として採用されており、推定再建築費算出率は、建設省が年一回、「公営住宅法施行規則に規定する家賃の変更にかかる修繕費及び管理事務費にかかわる率並びに公営住宅または共同施設の譲渡にかかわる率を定めた件」として告示されている。

(三) 推定再建築費算出率は次のようにして求められる。

(1) 昭和二五年を基準とした本年の標準建築費指数を算出する。

(2) 右指数に、一平方メートル当たりの基準単価を乗じて、本年の単位当たりの建築単価を求める。

(3) 各年の単位当たり単価と本年の建築単価とを比較し、その変動率を求める。

(計算式)

本年の坪当たり単価/建築年の坪当たり単価=推定再建築費算出率

(四) 右のうち、標準建築費指数は、建設工業経営研究会が、建設業協会の会員の業者から原資料の提供を受けて、建物の費用構造における代表細目について基準時ウエイトを設定し、比較時の各細目の価格指数を基に、ラスパイレス式によつて算出されている。

(五) ラスパイレス式は、総合的な物価指数を算出するための一つの方式であり、個々の費目の物価を総合するについてのウエイトには基準時の数量を用いているから、経年とともに物価指数を継続させていくことが簡単で、最も一般的に利用されているものであるが、ウエイトが基準時に固定されるため、時の経過による設計、施工の技術的進歩や社会情勢の変化を敏感に反映しないという欠点があると言われており、建設工業経営研究会では、概ね五年ごとに基準を新たにしている。

(六) 従つて、右五年ごとの指数を接続することが必要となるが、このことは作業的にも理論的にも困難で、ラスパイレス式で計算したものを同じく総合的物価指数を算出するための方式であるパーシェ式及びフィッシャー式によつて修正する方法もとられているが、右の計算は非常に複雑であるし、考え方自体の妥当性についても疑問視する向がある。

2  右の事実によれば、昭和二五年を基準時としてラスパイレス式により求められた標準建築費指数を基礎とする推定再建築費算出率に基づいて算出される推定再建築費については、ラスパイレス式指数の接続という面において、理論上一定の限界が存しているものの、概ね物価変動を反映しているものと推認することができるし、これに代るより理論的な方式が存在しない以上、物価変動を補正するための基準としては十分合理性を有しているものと言うべきである。

3  住宅の維持管理費は、前記のように住宅の建築費に一定の乗率を乗ずることによつて求められるが、右方式を前提として、物価変動を反映させるためには、推定再建築費を用いることは合理性を有しているものと言うべきである。そして、右乗率自体が可能な限り低く押えられていることは前記のとおりであるから、推定再建築費を基準として住宅の維持管理費を算出しても、右乗率が一定である以上、相対的に見て、他の民間借家に比べて居住者の負担は軽減されているものと言うことができるのであつて、推定再建築費を基準として用いることが公社法の趣旨に反すると言うことはできない。

4  被告らは、推定再建築費と住宅の維持管理費との間に合理的関係は存しない旨主張するが、そもそも、住宅の維持管理費については、その合理的関連の有無を問わず前記の計算式によるものと政策的に定められているのであるから、そこに物価変動を反映させる場合についてだけ、建築費と維持管理費の合理的関係を問題にすることは妥当ではない。むしろ修繕費について見れば、修繕は建物の一部再建築とも言い得るのであるから、推定再建築費を基準とすることと合理的関係を有しているものと言うべきである。

二本件値上げにおける家賃構成要素中の住宅の維持管理費の額の決定の合理性について

1  公庫法三五条二項は、主務大臣が定める額をもつて、家賃の上限とする旨を定めるものであるので、右を受けた公庫法規則一一条五項が、住宅の維持管理につき必要と認めたときは、公庫の承認を得て、必ず推定再建築費に千分の1.4を乗じた額を維持管理費としなければならず、それよりも低い額とすることは許さない、ということを要求しているものとは解されないのであつて、その意味では、公庫法規則一一条五項は、原告の家賃変更の際の維持管理費の上限を定めたものと言うべきである。

2  原告は、前記のとおり、本件値上げに当たつては、住宅の維持管理費について、右上限までの増額をしているので、この点につき検討する。

(一) まず、公庫法規則一一条五項は、右上限までの範囲内であれば、原告の主体的判断で、住宅の維持管理費を決定することができることを定めたものと解すべきであつて、ある一定の場合に、右上限からの減額を原告に対して義務付けているものではないのであるから、原告が右額を決定するについて合理的理由が存在する以上は、それを尊重すべきである。右の決定にもかかわらず、額を減額するためには、右合理的理由が存するにもかかわらずなお減額することを相当とするような特段の事情がなければならないものと言うべきである。

(二) 前記修繕費乗率は、インフレ等の物価変動を考慮に入れることなく、必要最低限の修繕を行うについて、できるだけ節約することを前提として求められた極めて限定的な数値であると言えるのであり、推定再建築費は、一応、当初の建築費にその後の物価変動を反映したものであるから、推定再建築費に修繕費乗率を乗じた額もまた、当初の修繕費と同様、今後の必要最低限の修繕を行うにつき、できるだけ節約することを前提とした極めて限定的なものと言うべきであつて、修繕費分に関する限り、右数値より低い額に決定することは相当でないものと言うべきである。

(三) これに対して、管理事務費についての乗率には、修繕費の場合のような理論的根拠について判断するだけの資料がなく、推定再建築費は、主として建築に関する物価上昇を反映したものと言うことはできても、必ずしも管理事務費についての物価上昇を反映したものと言うことはできないのであるから、修繕費の場合のように論理的に結論が導かれるものではない。

(四) 更に、前記のように管理事務費については、配賦率によるという擬制的な方法でしか把握できないのであるから、具体的な額の比較によつて判断することができるものではないが、少なくとも、支出が増大し、赤字が増大するという傾向にあることは認められるのであるから、将来の支出の増大に備えるという点を考えれば、上限に決定した原告の判断は、必ずしも不合理なものとは言えない。

第七  青葉町第二住宅の家賃について

一青葉町第二住宅については、公庫からの借入金を全額償還済みであるため、家賃額の決定につき、公庫との関係においても、公庫法規則一一条の適用は受けないことになるが、公社住宅である以上、公社法規則一六条一項の適用を受け、家賃構成要素が定められており、他の公社住宅の家賃との均衡を図る必要もあることから、基本的に公庫法規則一一条の方式に依拠しつつ、家賃額につき検討していくこととする。

二青葉町第二住宅における特殊事情について

1  〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 青葉町第二住宅は、一〇年償還、年利七パーセントの約定による公庫からの借入金によつて建築されたが、右借入金の条件は、他の公社住宅の場合に比べて、償還期間が短く、年利が高いため、家賃構成要素中の公庫借入金償還金額が他に比較して高額となつている。

(二) 公庫借入金の返済期限は、一〇年後である昭和四八年一〇月一五日とされており、入居開始当時、原告と青葉町第二住宅の敷地所有者である東京日産との間で、右返済後、青葉町第二住宅の建物を、原告が東京日産に譲渡する旨の約束がされていた。従つて、原告と入居者との間の賃貸借契約書にも「甲(原告)が、本契約の成立後一〇年を経過し、本契約の目的物をその目的物の所在する土地所有者に譲渡する場合においても、乙(入居者)は、異議ないものとする。」旨の条項が加えられている。

(三) その後、昭和三九年に、原告が東京都から次の約定で借り受けた四四〇八万九一二〇円についての抵当権を青葉町第二住宅の建物につき設定するに際し、原告と東京日産とは、右譲渡の時期を、右東京都からの借入金返済後とすることを合意した。

(1) 利子 無利子

(2) 弁済期限及び弁済方法

弁済期限は昭和五三年一〇月一五日までとし、昭和四八年一〇月一五日までは据え置き、以後五年間に年賦均等償還により弁済する。ただし、期限前に残存債務の一部または全部を繰上償還することができる。

(3) 特約

割賦償還金の支払を怠つたときは、支払うべき額に対し、完済に至るまで、日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う。

(四) 原告は、昭和四八年一〇月一五日、公庫借入金を完済し、その後、東京都からの借入金も完済し(ただし、前記抵当権設定登記については、昭和五八年一月二〇日解除を原因として、同月二一日に抹消登記がなされている。)、昭和五八年一月三一日、青葉町第二住宅の建物を東京日産に譲渡し、居住者に対する賃貸人の地位も譲渡した。

(五) 青葉町第二住宅に対する計画修繕のうち、少なくとも、外壁塗装については、実施されないまま、東京日産に譲渡された。

2  右の事実に照らせば、青葉町第二住宅については、単に本件値上げ時点において、公庫借入金の償還が終了していたというだけではなく、次の点において、他の団地とは異なつた考慮を要するものと言うべきである。

(一) 入居開始の時点から、借入金償還後には、管理主体が原告から東京日産に移行することが予定されていた。

(二) 右移行の時期についても、当初は、昭和四八年が予定され、その後昭和五三年に延期され、実際に移行されたのは入居開始の二〇年後である昭和五八年であるが、本件モデルに基づけば、昭和五三年の時点では、青葉町第二住宅の修繕費収支はプラスであり、昭和五八年の時点は、右収支がマイナスになつて二年目に当たるに過ぎない。

(三) 青葉町第二住宅についての修繕費の収支は、前記のとおり、本件値上げ時点まではプラスになつているが、本件値上げ後、前記東京日産への譲渡までの間に修繕周期が訪れるはずである外壁塗装(前記営繕工事実施基準によれば周期は一五年とされている。)が実施された形跡が見受けられないことからしても、本件値上げ後、それほど多額の修繕費を支出したものと推認することはできない。

(四) 東京都からの借入金の償還は、昭和五三年一〇月一五日には終了しているものと推認できるのであるから、右の後、昭和五八年一月三一日までは、家賃構成要素中の公庫(東京都)借入金償還額相当額が、留保されることになり、右留保額を、青葉町第二住宅についての各赤字項目に充当することも一応可能となる。しかしながら、右留保額の発生は、原告と東京日産との間の、青葉町第二住宅譲渡についての具体的話合いが予定よりも遅れたことによるものと推認できるのであるから、本件値上げ時点(右時点では、昭和五三年一〇月一五日の東京都借入金の償還終了後速かに譲渡が行われる予定であると考えられていたものと推認することができる。)において、右留保額を予定して具体的賃料額を決定することまでは妥当ではないものと言うべきである。従つて、結果論としての右留保額の発生は、本件においては、住宅についての維持管理費が不足しているかどうかという局面においてだけ考慮に入れることとし、他の家賃構成要素の過不足については、右留保額を充当するという方法は採用すべきではないものと解するのが相当である。

3 右の点を考慮して検討すると、青葉町第二住宅の家賃構成要素中の維持管理費については、次の理由により、前記第六の二2(一)で述べた特段の事情が認められ、従前の額のままで、十分であると認められる。

(一) 青葉町第二住宅については当初から東京日産への譲渡が予定されており、その時期は修繕費の経年変化に照らしていえば、未だ、他の団地の修繕費収入に依存しなくてもよい時期であつたのであるから、他の公社住宅とは別に、個別に収支計算をすべき団地であつたものと言うことができる。

(二) そして個別の収支計算において、修繕費は、計画修繕の遅れはあるにせよ、本件モデルに比較しても低い割合しか支出されておらず、本件値上げの時点では当時予定されていた譲渡の時期まであと二年と迫つていたのであるから、その期間内は、右修繕費の黒字をもつて、十分修繕を実施することができるものと考えられるし、譲渡時期が遅れることによつて必要とされる修繕費についても、右譲渡時期の遅れによつて、前記留保額が生ずるのであるから、これらによつて十分賄い得るものと言うべきである。

(三) 管理事務費については、前記配賦率による計算によれば、赤字となつているが、右の方式が必ずしも個々具体的な数値を反映しているものとは言い難いことは前記のとおりである。そして、青葉町第二住宅についての管理事務費の収支が仮に配賦率による計算のとおり赤字であつたとしても、前記結果論としての留保金をそれにも充当することができる。

第八  江古田住宅についての信義則違反、権利濫用の主張について

一〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

1  江古田住宅においては、昭和五六年当時妻壁に亀裂がある棟、屋上のモルタルに亀裂がある棟や、床スラブに亀裂や紙くずを突つ込んだ跡が認められる住戸が存在し、それが雨漏り等の原因となつているものと考えられていた。

2  江古田住宅においては、昭和五四年度の台風によつて、相当程度の雨漏り被害が発生している外、当時、通常ある程度の雨漏りや、台所の流しからの水漏れ等の事故が起きていた。

3  原因は、右雨漏り等について、住民から要請があつた場合には、部分的修理を施していたが、それでは雨漏り等を完全に止めることはできなかつた。

4  江古田住宅に関する外壁塗装や窓枠取替え等の右雨漏り防止に役立つような計画修繕は、昭和五六年一一月ころに、実施された。

二右の事実に照らせば、本件値上げ当時においても、前記のような亀裂等による雨漏りはある程度発生していたものと推認することができるが、右雨漏り等は、江古田住宅についての計画修繕が遅れていたことに起因するものと言うことができる。そして、原告は、賃貸住宅を居住に適するように維持管理する義務を負つていることは言うまでもないことである。

三しかし、計画修繕が遅れ勝ちであつたことの原因としては、前記のとおり、極めて制限された修繕費をもつて、かつ賃貸開始以来一度も右修繕費を含む家賃を改定することなく推移したため、予算的制約があつたこともその一つに挙げられるのであり、また、前記のように、原告としては、居住者の要望による部分的修繕は行つていたのであるから、右雨漏りについて、すべて原告の義務違反によるものとすることはできないものと言うべきである。特に修繕費の収支は、前記のとおり公社住宅全体でマイナスになつており、個別団地別にみても、江古田住宅は、マイナスの幅が大きいのであるから、本件値上げが信義則に反し、あるいは権利の濫用となるものとは認められない。

第九  西台住宅の入居開始時期と本件値上げについて

一西台住宅は、昭和四八年三月三一日に入居を開始したから、入居開始後三年半で本件値上げを迎えることになる。そして〈証拠〉によれば、本件値上げの対象とされたのは、昭和四八年三月までに公募し入居した団地までであることが認められるのであるから、西台住宅の場合、まさに一日違いで本件値上げの対象とされたものと言うことができる。

二しかしながら、修繕費について、公社住宅全体の収支がプラスでなければ必要最低限の修繕を実施し得ないという状況のもとで、右収支がマイナスであり、その原因がインフレによる物価上昇に求められる以上、理論的には全公社住宅が値上げの対象とされてもよい訳であるから、具体的にどの時点に入居を開始した団地までを対象とするかは、管理者である原告の裁量的判断に委ねられているものと言うべく、単に入居開始から三年半しか経つていないというだけでは、値上げの対象とされることを否定する論拠にはなり得ないものと言うべきである。

第一〇  本件四団地についての家賃額の決定

一以上の事実によれば、本件四団地の月額家賃については、昌平橋住宅、江古田住宅、西台住宅については別表一の1、2、4のとおりの計算により、青葉町第二住宅については別表二〇の3のとおりの計算で求められた額を戸数七〇で割ることにより求められ、右算定家賃額と当初家賃との対比は、別表四二(住宅別算定家賃)のとおりである(青葉町第二住宅の一戸当たりの月額家賃算定に当たつては、一〇円未満は切捨てとした。)。

二〈証拠〉によれば、原告は、本件四団地のうち公庫借入金の償還が終了しているため公庫の承認を要件としない青葉第二住宅を除く三団地について、公庫に対し、別表一の1、2、4のとおりの家賃値上げの承認申請をし、昭和五一年一〇月一三日、公庫の承認を得、また建築資金につき東京都からも借入れをしている関係で、本件四団地につき、東京都に対し、別表一の1ないし4のとおりの家賃値上げの承認申請をし、昭和五一年一〇月一六日、東京都の承認を得ていることが認められる。そして、前記認定額は、青葉町第二住宅を除く三団地については、右承認額と一致しているし、青葉町第二住宅については、右承認額よりも低額であるから、右承認の効力が及んでいるものと言うべきである。

第一一  入居後、本件値上げまで一年未満の被告らについて

一前記のように原告と被告らとの間の各賃貸借契約においては、期間が一年と定められているところ、被告らのうち、別表四三(入居後一年未満の被告ら)記載の被告らは、入居後一年未満で本件値上げを迎えたことになる。よつて、右被告らに対する昭和五一年一二月一日からの値上げが、許されるものかどうか検討する。

二〈証拠〉によれば、公庫の貸付金により建設した賃貸住宅についての「賃貸住宅家賃算定基準」(昭和四九年一〇月一日住公達第一四号)において、各住戸の家賃の額は、一つの金銭消費貸借契約に係る団地を単位として、別表一九の各家賃構成要素の合計額に、住宅の床面積の合計に対する当該住戸の床面積の割合を乗じることにより算出するものとされていることが認められる。

三右によれば、原告の賃貸住宅の家賃については、右算定基準に基づいて、団地単位の額から各住戸の家賃が算出されるという方式となつていて、各居住者の入居の時期、居住期間等は、各住戸の家賃算定の要素とはなつていないものと言うことができ、かつ、右のような方式は、東京都内各地において、様々な公社住宅を管理し、入居時期の異なる多数の賃借人を入居させている原告の家賃決定方式としても合理性を有しているものと言うことができる。

四また、弁論の全趣旨によれば、入居者も、家賃に関する原告の右のような処理方式を前提として、原告の賃貸住宅に入居しているものと認められるのであるから、本件値上げに当たつて、家賃額が団地単位で一律に決定され、団地内の個々の入居者の個別の事情(個々の入居者の入居時期もこれに含まれるものと言うべきである。)を考慮しなかつたことは、何ら問題とならないものと言うべきである。

第一二  原状回復費用について

一請求原因六(原状回復費用)のうち、別紙賃貸借目録(三)記載の各被告らが、同目録記載の各退去年月日に、各住宅を退去した事実は、当事者間に争いがない。

二〈証拠〉によれば、原告においては、前記賃貸借契約における原状回復費用についての約定に基づく空家補修費の原告負担分と退去者負担分の区分及び査定について、別表四四(住宅損害査定基準表)に基づいて実施していることが認められる。

三〈証拠〉によれば、別紙賃貸借目録(三)記載の各被告らについて、右住宅損害査定基準表に基づき、退去者負担と査定されたものは、別表四五(被告別原状回復費用内訳)のとおりであることが認められる。

第一三  原告らの不払金額について

以上によれば、青葉町第二住宅関係の被告ら(被告番号78ないし130、407、408の各被告ら、以下「青葉町第二住宅関係被告ら」という。)の不払金額は、別表四六(青葉町第二住宅関係被告ら不払金額一覧表)記載のとおりであり、右被告らを除くその余の被告らの不払金額は、別紙賃貸借目録(一)記載一ないし七四、一二三ないし三五三、同賃貸借目録(二)記載一、二、四ないし二〇、同賃貸借目録(三)記載一ないし四、一一ないし四九の各不払金額欄記載のとおりであると認められる(なお、別紙賃貸借目録(二)記載の各被告らが、同目録(二)記載の各退去年月日に、各住宅を退去した事実は当事者間に争いがない。)。

第一四  結論

以上の次第で、原告の、青葉町第二住宅関係被告らを除くその余の被告らに対する本訴請求は、いずれも理由があるから認容し、青葉町第二住宅関係被告らに対する本訴請求は、いずれも別紙認容額一覧表記載九ないし一四、六三、六四の限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大城光代 裁判官野崎弥純 裁判官團藤丈士)

別紙 認容額一覧表

一 被告番号1ないし36の各被告ら

金四九万七五二〇円(昭和五一年一二月一日から昭和五七年一一月三〇日まで一か月金六九一〇円の割合による金員)及び右各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

二 被告番号37ないし53の各被告ら

金四四万七八四〇円(昭和五一年一二月一日から昭和五七年一一月三〇日まで一か月金六二二〇円の割合による金員)及び右各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

三 被告番号54ないし65及び73の各被告ら

金四〇万〇三二〇円(昭和五一年一二月一日から昭和五七年一一月三〇日まで一か月金五五六〇円の割合による金員)及び右各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

四 被告番号66ないし70及び74の各被告ら

金三五万二八〇〇円(昭和五一年一二月一日から昭和五七年一一月三〇日まで一か月金四九〇〇円の割合による金員)及び右各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

五 被告番号71及び72の各被告ら

金三九万六〇〇〇円(昭和五一年一二月一日から昭和五七年一一月三〇日まで一か月金五五〇〇円の割合による金員)及び右各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

六 被告番号75

金三一万〇〇七六円及び内昭和五一年一二月一日から昭和五五年八月三一日まで一か月金六二二〇円の割合による各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

七 被告番号76

金三二万〇三六四円及び内昭和五一年一二月一日から昭和五五年一〇月四日まで一か月金五五六〇円の割合による各月分の金員(ただし最終月分は金一三六〇円)に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

八 被告番号77

金二三万五二七二円及び内昭和五一年一二月一日から昭和五五年五月一六日まで一か月金四九〇〇円の割合による各月分の金員(ただし最終月分は金四八〇〇円)に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

九 被告番号78ないし124及び130の各被告ら

金三二万七八二〇円(昭和五一年一二月一日から昭和五八年一月三一日まで一か月金四四三〇円の割合による金員)及び右各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

〈以下省略〉

請求一覧表

一 認容額一覧表記載一ないし八、一五ないし六二、六五ないし七八と同旨

二 被告番号78ないし124及び130の各被告ら

金七〇万三〇〇〇円(昭和五一年一二月一日から昭和五八年一月三一日まで一か月金九五〇〇円の割合による金員)及び右各月分の金員に対する各翌月一日から本判決確定の日まで年一〇パーセントの割合による金員

〈以下省略〉

物件目録

一 一棟の建物

東京都千代田区外神田一丁目三二番地所在

東京都住宅供給公社 昌平橋住宅

家屋番号 三二番三号

鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根 地下一階地上一〇階建 共同住宅

床面積 登記簿上

2136.78平方メートル

現況

2629.08平方メートル

(以下右建物を「昌平橋住宅」という。)

二 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目六一番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅一号棟

家屋番号 六一番四号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 1088.52平方メートル

三 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目六一番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅二号棟

家屋番号 六一番五号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 1088.52平方メートル

四 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目六一番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅三号棟

家屋番号 六一番六号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 1088.52平方メートル

五 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目六一番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅四号棟

家屋番号 六一番三号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 1097.51平方メートル

六 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目七九番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅五号棟

家屋番号 七九番六号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 1296.13平方メートル

七 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目八一番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅六号棟

家屋番号 八一番七号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 648.06平方メートル

八 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目七九番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅七号棟

家屋番号 七九番五号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 1296.13平方メートル

九 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目七九番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅八号棟

家屋番号 七九番四号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 1296.13平方メートル

一〇 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目七七番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅九号棟

家屋番号 七七番二号

鉄筋コンクリート造陸屋根五階建 共同住宅

床面積 1403.10平方メートル

一一 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目七八番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅一〇号棟

家屋番号 七八番八号

鉄筋コンクリート造陸屋根五階建 共同住宅

床面積 1395.47平方メートル

一二 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目七七番地所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅一一号棟

家屋番号 七七番三号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 846.28平方メートル

一三 一棟の建物

東京都中野区江原町一丁目七六番地四、五所在

東京都住宅供給公社 江古田住宅一三号棟

家屋番号 七六番三号

鉄筋コンクリート造陸屋根四階建 共同住宅

床面積 972.16平方メートル

(以下、二ないし一三の各建物を「江古田住宅一ないし一一及び一三号棟」といい、右各建物を一括して「江古田住宅」という。)

一四 一棟の建物

東京都渋谷区神宮前五丁目五二番地所在

旧東京都住宅供給公社青葉町第二住宅

家屋番号 五二番三号一

鉄筋コンクリート造陸屋根一一階建 共同住宅

床面積

(登記簿上) 3372.04平方メートル

(現況) 3736.89平方メートル

(以上、右建物を「青葉町第二住宅」という。)

一五 一棟の建物

東京都板橋区高島平九丁目一番地八所在

東京都住宅供給公社 西台住宅五号棟

家屋番号 一番八号一

鉄筋コンクリート造陸屋根

(登記簿上) 一三階建 共同住宅

床面積 20,955.83平方メートル

(現況) 一四階建 共同住宅

床面積 21,888.13平方メートル

(以下、右建物を「西台住宅」という。)

賃貸借目録(一)

一 被告 中村レツ(被告番号1)

賃貸借物件 昌平橋住宅のうち、(以下、三六まで同じ)五階

第五〇二号

床面積 44.25平方メートル(以下、三六まで同じ)

賃貸借年月日 昭和四一年七月二日

当初家賃額 一万三八五〇円

改定家賃額 二万〇七六〇円

家賃差額 六九一〇円

不払金額 昭和五一年一二月一日から昭和五七年一一月三〇日までの各月家賃差額

合計 四九万七五二〇円(以下、三六まで同じ)

〈以下省略〉

賃貸借目録(二)

一 被告 尾崎晃雄(被告番号404)

賃貸借物件 江古田住宅二号棟のうち、二階 第二二〇号

床面積 45.35平方メートル

賃貸借年月日 昭和四五年六月五日

当初家賃額 五二〇〇円

改定家賃額 一万一四二〇円

家賃差額 六二二〇円

退去年月日 昭和五三年四月三〇日

不払金額 昭和五一年一二月一日から退去日までの各月家賃差額

合計一〇万五七四〇円

〈以下省略〉

賃貸借目録(三)

一 被告 相馬計二(被告番号75)

賃貸借物件 江古田住宅二号棟のうち、四階 第二四〇号

床面積 45.35平方メートル

賃貸借年月日 昭和三九年三月二一日

当初家賃額 五二〇〇円

改定家賃額 一万一四二〇円

家賃差額 六二二〇円

退去年月日 昭和五五年八月三一日

原状回復費用額 三万〇一七六円

不払金額 三一万〇〇七六円

1 昭和五一年一二月一日から退去日までの各月家賃差額

合計二七万九九〇〇円

2 現状回復費用額 三万〇一七六円

〈以下省略〉

建設費内訳

区分

建設費

公庫貸付金

東京都借入金

土地取得費

0円

0円

0円

工事費

建築工事費

90,484,878

}61,250,000

}30,794,708

屋外附帯工事費

1,559,830

特殊基礎工事費

3,801,363

2,460,000

1,341,363

昇降機工事費

2,185,777

1,630,000

555,777

98,031,848

65,340,000

32,691,848

合計

98,031,848

65,340,000

32,691,848

型式

特B

戸当り床面積

44.25m2

戸数

42戸

戸当り月額家賃

20,760円

※ 拾円未満端数切捨

建設費内訳

区分

建設費

公庫貸付金

東京都借入金

土地取得費

(第1)

(第2)

61,777,791円

8,483,604

46,330,000円

6,360,000

15,447,791円

2,123,604

工事費

建築工事費

189,355,334

28,304,740

148,620,000

21,220,000

40,735,334

7,084,740

屋外附帯工事費

27,163,900

3,848,832

13,764,000

2,880,000

13,399,900

968,832

特殊基礎工事費

3,318,000

0

2,486,000

0

832,000

0

昇降機工事費

0

0

0

0

0

0

219,837,234

32,153,572

164,870,000

24,100,000

54,967,234

8,053,572

合計

281,615,025

40,637,176

211,200,000

30,460,000

70,415,025

10,177,176

型式

A

B

C

D

戸当り床面積

m2

35.23

m2

45.35

m2

40.49

m2

37.75

戸数

24

96

160

64

戸当り月額家賃

10,100

11,420

10,210

9,000

※ 拾円未満端数切捨

建設費内訳

区分

建設費

公庫貸付金

東京都借入金

土地取得費

0円

0円

0円

工事費

建築工事費

97,517,140

58,110,000

39,407,140

屋外附帯工事費

4,855,271

0

652,400

自己負担金 4,202,871

特殊基礎工事費

2,536,865

1,890,000

646,865

昇降機工事費

3,382,715

0

3,382,715

108,291,991

60,000,000

44,089,120

自己負担金 4,202,871

合計

108,291,991

60,000,000

44,089,120

自己負担金 4,202,871

型式

B

戸当り床面積

52.72m2

戸数

70戸

戸当り月額家賃

23,300円

※ 拾円未満端数切捨

建設費内訳

区分

建設費

公庫貸付金

東京都借入金

土地取得費

1,017,576,760円

581,950,000円

435,626,760円

工事費

建築工事費

1,173,563,400

}801,460,000

}397,447,000

屋外附帯工事費

25,343,600

特殊基礎工事費

0

0

0

昇降機工事費

38,447,240

24,750,000

13,697,240

1,237,354,240

826,210,000

411,144,240

合計

2,254,931,000

1,408,160,000

846,771,000

型式

W

戸当り床面積

60.92m2

戸数

398戸

戸当り月額家賃

26,690円

※ 拾円未満端数切捨

別表二

所属部別役職員現員表(昭和41年度―昭和50年度)

役員

総務部

経理部

業務部

管理部

用地部

建設部

企画考査室

南多摩開発

事務所

合計

備考

41

11

55

26

36

108

58

81

11

386

42

9

49

28

30

117

56

80

10

379

43

10

52

36

32

124

56

81

391

44

11

49

36

33

124

55

83

391

45

12

46

44

32

133

38

96

21

422

46

11

47

45

36

141

39

105

23

447

47

11

49

48

37

149

44

115

23

476

48

10

44

46

37

149

43

112

22

463

49

9

42

46

34

147

45

107

21

451

50

11

41

44

33

146

43

107

23

448

別表三

管理部職員1人当り管理戸数(昭和41年度?昭和50年度)

年度

管理部職員数

住宅管理戸数

職員1人当り

管理戸数

備考

賃貸

長期分譲

41

108

22,617

2,568

25,185

233

42

117

23,711

5,136

28,847

247

43

124

25,989

6,324

32,313

261

44

124

29,397

7,321

36,718

296

45

133

33,643

9,148

42,791

322

46

141

37,245

11,158

48,403

343

47

149

41,080

12,549

53,629

360

48

149

42,203

13,069

55,272

371

49

147

44,109

13,068

57,177

389

50

146

46,125

13,068

59,193

405

別表五

賃貸住宅管理事務費収支内訳(昭和41年度~昭和50年度)

(単位 千円)

項目

年度

41

42

43

44

45

46

47

48

49

50

備考

収入

94,508

178,671

148,258

170,123

238,270

243,258

278,169

297,460

324,063

353,609

支出

94,508

196,137

162,392

202,446

292,553

272,625

382,830

465,540

712,732

780,974

直接経費

委託費

0

0

0

253

2,387

6,696

30,918

40,548

55,930

73,535

人件費

75,821

86,975

47,117

19,586

22,528

27,941

23,635

30,992

54,348

66,745

需用費

14,858

21,494

13,761

14,174

19,773

18,942

39,501

41,578

20,227

36,092

90,679

108,469

60,878

34,013

44,688

53,579

94,054

113,118

130,505

176,372

部門共通費

人件費

0

0

49,357

87,310

112,107

111,972

128,489

191,156

301,785

293,509

需用費

0

0

7,233

8,189

10,356

12,473

16,806

20,209

25,132

19,805

0

0

56,590

95,499

122,463

124,445

145,295

211,365

326,917

313,314

一般管理費

人件費

0

42,803

32,778

36,006

52,327

59,962

63,637

69,912

87,761

119,325

需用費

0

}14,707

4,044

9,442

14,822

16,700

21,546

12,161

16,469

16,241

運営費

0

8,102

7,803

7,143

9,093

10,874

7,606

49,135

45,441

0

57,510

44,924

53,251

74,292

85,755

96,057

89,679

153,365

181,007

退職給与引当金繰入

3,829

30,158

0

19,683

51,110

8,846

47,424

51,378

101,945

110,281

収支差引―

0

△17,466

△14,134

△32,323

△54,283

△29,367

△104,661

△168,080

△388,669

△427,365

別表九の1

賃貸住宅管理事務費の訴訟四団地配賦率一覧表(41~45年度)

年度

区分

賃貸住宅全体

訴訟四団地配賦率

賃貸住宅管理

事務費の総費用

昌平橋

江古田

青葉町第二

西台

41

管理戸数

22,617

42

344

70

延月数

257,126

378

4,128

840

94,507,620

配賦率

0.1470

1.6054

0.3267

42

管理戸数

23,711

42

344

70

延月数

278,289

504

4,128

840

196,137,420

配賦率

0.1811

1.4834

0.3018

43

管理戸数

25,989

42

344

70

延月数

296,444

504

4,128

840

162,392,197

配賦率

0.1700

1.3925

0.2834

44

管理戸数

29,397

42

344

70

延月数

338,713

504

4,128

840

202,445,915

配賦率

0.1488

1.2187

0.2480

45

管理戸数

33,643

42

344

70

延月数

377,612

504

4,128

840

292,553,342

配賦率

0.1335

1.0932

0.2225

説明

訴訟四団地の配賦率は,当該団地の年間管理延月数を賃貸住宅の総戸数の年間管理延月数によって算出したものである。また、訴訟四団地の管理事務費は,試算として決算上表示された賃貸住宅の管理事務費の総費用をこの率によって割り当てたものである。

試算例

41年度当初管理戸数  20,063戸

〃 年度中増加戸数   2,554戸

計   22,617戸×12ケ月(但し,年度中増加のものは入居による延月数)

延管理月数 257,126ケ月

昌平橋団地 42戸×9ケ月=378ケ月(41年7月入居)

378/257,126×100=0.1470%

別表九の2

管理部門種別毎及び訴訟四団地配賦率一覧表(46~53年度)

年度

区分

種別毎の配賦率

訴訟四団地配賦率

賃貸住宅管理

事務費の

総費用

賃貸住宅

賃貸店舗

一般産労

積立分譲住宅

一般分譲住宅

産労分譲

中高層建築物

昌平橋

江古田

青葉町

第二

西台

46

管理戸数

37,246戸

522戸

1,303戸

4,870戸

5,637戸

246戸

212戸

50,036戸

42戸

344戸

70戸

―戸

272,625,531

延月数

425,389月

6,622月

15,166月

52,800月

64,941月

2,952月

2,542月

570,412月

504月

4,128月

840月

―月

配賦率

74.58%

1.16%

2.66%

9.26%

11.38%

0.52%

0.44%

100%

0.1185%

0.9704%

0.1975%

―%

47

管理戸数

41,081

600

1,274

5,652

6,651

246

140

55,644

42

344

70

382,829,923

延月数

444,786

6,880

15,288

63,561

72,840

2,952

1,486

607,793

504

4,128

840

配賦率

73.18

1.13

2.52

10.46

11.98

0.49

0.24

100

0.1133

0.9281

0.1889

48

管理戸数

42,204

680

1,260

5,652

6,835

582

119

57,332

42

344

70

398

465,540,483

延月数

499,125

8,053

15,168

67,824

81,677

3,960

1,431

677,238

504

4,128

840

4,776

配賦率

73.70

1.19

2.24

10.02

12.06

0.58

0.21

100

0.1010

0.8270

0.1683

0.9569

49

管理戸数

44,110

821

5,652

6,835

582

117

58,117

42

344

70

398

712,731,607

延月数

507,460

8,164

67,824

82,020

6,984

1,377

673,829

504

4,128

840

4,776

配賦率

75.31

1.21

10.07

12.17

1.04

0.20

100

0.0993

0.8135

0.1655

0.9412

50

管理戸数

46,126

962

5,652

6,834

582

60,156

42

344

70

398

780,973,897

延月数

532,374

9,660

67,824

82,008

6,984

698,850

504

4,128

840

4,776

配賦率

76.18

1.38

9.70

11.74

1.00

100

0.0947

0.7529

0.1587

0.8971

51

管理戸数

49,803

969

5,652

6,831

582

63,837

42

344

70

398

1,012,461,567

延月数

580,249

11,483

67,824

81,984

6,984

748,524

504

4,128

840

4,776

配賦率

77.52

1.54

9.06

10.95

0.93

100

0.0869

0.7114

0.1448

0.8231

52

管理戸数

50,288

906

5,652

6,827

246

64,255

42

344

70

398

1,187,050,838

延月数

597,623

10,872

67,824

81,955

2,952

761,226

504

4,128

840

4,776

配賦率

78.51

1.43

8.91

10.77

0.38

100

0.0843

0.6907

0.1406

0.7992

53

管理戸数

52,532

935

5,652

6,827

246

66,192

42

344

70

398

1,199,872,424

延月数

608,302

10,824

67,824

81,924

2,952

771,826

504

4,128

840

4,776

配賦率

78.81

1.41

8.79

10.61

0.38

100

0.0829

0.6786

0.1381

0.7851

説明

配賦率は賃貸住宅その他の住宅総戸数の年間管理延月数によってその率を算出したものである。訴訟4団地の管理事務費は,さらに試算として決算上表示された賃貸住宅の管理事務費の総費用をこの率によって割り当てたものである。

試算例  46年度当初管理戸数 33,643戸

〃 年度中増加戸数 3,603戸

計     37,246戸×12ケ月

(但し,年度中増加のものは入居月による延月数)

延管理月数 425,389ケ月

昌平橋団地 42戸×12ケ月=504ケ月

504/425,389×100=0.1185%

別表一九

家賃要素項目

算式

備考

(イ)公庫貸付金の償還金

公庫貸付金の額×償還元利均等月払定率

(ロ)自己資金の償却

(建設費-公庫貸付金)×3パーセントの定率

(ハ)土地の利回り

(土地又は借地権の価額-公庫貸付金)

×3/1200

(ニ)地代又は地代相当額

地代又は地代に相当する額×1/12

(ホ)住宅維持管理費

(建築費+屋外附帯工事費)×1.4/1000

維持修繕費1/1000

管理事務費0.4/1000

(ヘ)昇降機の維持管理費

昇降機設置工事費×1.5/1000+保守に要する費用×1/12

(ト)固定資産税(土地・建物)

課税標準額×14/1000×1/12

(チ)都市計画税(土地・建物)

課税標準額×2/1000×1/12

(リ)住宅の災害を保険するための費用

損害保険料

住宅に係る特約保険の保険料の額×1/12

特約火災保険を付保している住宅

災害損失

引当金

(建築費+昇降機設置工事費)×0.72×料率×2/3×1/12

付保免除の住宅

(ヌ)貸倒れ等損失引当金

{(イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)+(ホ)+(ヘ)+(ト)+(チ)+(リ)}×2/100

合計

(イ)から(ヌ)まで加えた額

別表二一

団地名

戸当たり当初家賃額

戸数

当初団地単位月額家賃

=×

本件値上げ時団地

単位月額家賃

差引額-

昌平橋住宅

13,850

42

581,700

621,184

-39,484

江古田住宅

5,200

96

4,650

160

1,616,000

2,271,676

-655,676

4,100

64

4,600

24

青葉町第二住宅

13,800

70

966,000

1,276,432

-310,432

西台住宅

24,000

398

9,552,000

9,766,722

-214,722

注:は別表二〇の1ないし4の合計額である。

別表二四の1

中層耐火構造アパート1戸当り修繕費ノ経年変化

(31年度 公団住宅ニオケル公団義務修繕分)

(5年毎ノ平均月額)

年目

1~5

年目

6~10

年目

11~15

年目

16~20

年目

21~25

年目

26~30

年目

31~35

年目

36~40

年目

41~45

年目

46~50

年目

51~55

年目

56~60

年目

61~65

年目

66~70

1~70年

平均

1戸

当り

修繕費月額

309

878

774

1,052

1,136

1,406

596

1,010

878

804

409

721

85

25

720

別表三七

本件四団地修繕費経年変化

経年

モデル

昌平橋住宅

江古田住宅

青葉町第二住宅

西台住宅

A

43

36,3

(41~45)

13,9

(33~37)

31,3

(38~42)

44,2

(48~50)

B

122

84,4

(46~50)

115,5

(38~42)

46,1

(43~47)

C

107

203,5

(43~47)

72,7

(48~50)

D

146

869,5

(48~50)

注:(  )内は年度

小数点2桁以下切り捨て

計算式は別紙のとおり

別表三八

修繕費支出の推移

年度

経費的支出

小口修繕

計画修繕

合計

金額

割合

金額

割合

金額

割合

金額

割合

46

43,541

(100)

12

123,015

(100)

33

204,720

(100)

55

371,276

(100)

100

47

51,592

(118)

12

145,620

(118)

33

239,331

(117)

55

436,543

(118)

100

48

68,260

(157)

6

176,316

(143)

16

857,777

(419)

78

1,102,353

(297)

100

49

63,670

(146)

4

213,688

(174)

14

1,247,351

(609)

82

1,524,709

(411)

100

50

50,533

(116)

2.5

298,614

(243)

14.5

1,711,209

(836)

83

2,060,356

(555)

100

単位 金額:千円 割合:%

(   )は,昭和46年度の金額を100とした場合の割合(%)

別表四二

住宅別算定家賃

(単位   円)

住宅名

算定家賃額

当初家賃額

差額

昌平橋住宅

20,760

13,850

6,910

江古田住宅1~4号棟

11,420

5,200

6,220

同住宅5~8及び13号棟

10,210

4,650

5,560

同住宅9,10号棟

9,000

4,100

4,900

同住宅11号棟

10,100

4,600

5,500

青葉町第二住宅

18,230

13,800

4,430

西台住宅

26,690

24,000

2,690

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